中川:例えば、自分たちがお手伝いした福岡の和布刈神社は観光と崇拝に振り切り、氏子とコミュニティは無視しました。また、山田八幡神社はコミュニティに振り切っている。こうやって、何をやるかを決めた上でデザインなどの話が入ってくるのですが、多くの神社はこうした事例を見て、オシャレにすればいいんだと思ってるかもしれない。でも、それは大きな間違いで、戦略があり、それを実現するための手段としてデザインがある。
ここの認識を間違えると表面上、キレイにしてカッコよくすればいい、という誤解が起きてしまう。個人的な見解ですが、今後表面的なデザイン神社、デザインお寺が乱立する時代になってくると思います。ここ10年、プロダクトの世界で、表層的なデザイン、ブランディングが盛り上がって。ただ、それでは売れない、そこが重要ではないとみんな気づき始めていますが、寺社仏閣はこれから流れが来そう。
成瀬:自分たちはON THE TRIPで、そのお寺にしかない魅力を発見し、コンテンツをつくっています。一番大事なのは現場にいる人たちが気づいていない魅力、その人たちは当たり前だと思っているけれど、外の人には当たり前ではないものを丁寧に聞き出すことです。その場所でしかないものが大切で、それをどう見つけていくか。
オリジナルという言葉はオリジンが語源になっていて、その場所の起源を探っていくことが、その場所のオリジナルにつながっていくんじゃないかと思っています。
例えば、三千院にある往生極楽院は現世をわずかな時間でも離れ来世に極楽浄土を願う場所、つまり未来を思うところでした。なのですが、そのことについてはあまり発信されていませんでした。来世に祈りを捧げてきた人たちの積み重ねや、未来を祈ることを続けてきたお寺だったので、未来に祈るとはどういうことかを考えて、極楽浄土をテーマにしたオーディオガイドをつくりました。
そしてオーディオガイドの中で、現代の人たちに未来を考えてもらう施策ができないかと思い、3年後の自分に手紙を書く体験をつくったんです。未来といっても分かりづらいので、イメージがしやすい3年後。その自分宛に手紙を書き、その手紙をお守り袋に入れて持ち帰ってもらう体験にしました。
僕たちのやりたいことは、たくさんの人に来てもらうことではなく、来てくれた人たちの心の琴線に触れる体験を提供すること。そして何かひとつでも、心のお土産を持って帰ってもらうこと。するとそこでの原体験は忘れないですよね。そういうのがあると、ファンになり、ずっと関係性を持ちたいと思うんですよね。
中川:成瀬さんの場合はそこにしかない物語を聞いて、オーディオガイドで正しく伝えることをやっている。自分たちの場合は需要品やインフラの整備なども行っています。伝えるべき価値をちゃんと掘り起こして、それがいかにして正しく伝わるかを考え、いろいろな形で伝えようとしている点においては全く同じ考えです。
困っていると、あらゆる手をうち尽くそうと考えてしまう。それは悪いことじゃないけど、決してそれだけではない。伝えるべきことを想起して、正しく伝えることこそがブランディングだと思っています。結局、自分のことは自分が一番わからない。
何が観光客の心に響くのか。そこを見失いがちなので、僕らみたいな外部の人がいて、何の物語が心に響くのかをちゃんと整備してあげる。それを説教たらしく言うのではなく、いかに正しく伝えるかも腐心してやる。そこにあるべき意味がない神社やお寺はないはずなので、そこにしかない魅力を掘り起こし、きちんと伝える努力をする。