テクノロジー

2019.07.26 14:30

時代は情報から体験へ 水口哲也氏に聞く拡張現実の未来


水口:『Rez』の構想は、スタッフと頭の中で考えている時はだいたい、VRのように3次元の自由空間みたいなものなんですが、どんなに頭の中で壮大なイメージをしていても、結局最後は、目の前の3:4のテレビモニターに押し込めなくてはいけない。しかも、2D。結局、相当なビット落ちをして、作品化されるわけです。もちろん、誰もやったことがないことに挑戦している気持ちはありましたけど。

武田:トランス・ミュージックを聴いているような没入感で、意識や心にエフェクトがかかったような高揚感がありました。しかし、誰も見たことがないゲームをどのように企画書にしたのでしょうか?

水口:『Rez』は特定のジャンルから生まれていません。テーマは「音楽の演奏の気持ちよさを、新しい体験に変えること」でした。でも、そんなことを言っても伝わらないので、当時の役員には「これは新しいシューティングゲームです」って説明していました。

武田:テクノ系の音楽も斬新で、やっていて気持ちよかったです。

水口:当時は珍しく、いろいろな国のミュージシャンが参加してくれました。当初はオーケストラ音楽の構想もあったのですが、最終的にテクノサウンドにしました。ミニマルな電子音が、ゲームを進めるうちに芳醇な世界に変わっていく……効果音が、音楽となり、ビジュアルと連動し、それが振動として手に伝わる。それが、共感覚的な体験として循環していくというイメージを持っていたんです。

武田:それはアートに近いのかなあ。

水口:アートを作ろうとは全く考えてなかったです。ただただ、新しい体験をデザインしてみたかった。人間のイマジネーションは常に、共感覚的です。ゲームは共感覚的だから、新しい体験が作れるんじゃないかと思った。ほんと、ただそれだけ。

武田:でも、会社の役員には「わからない」と言われてしまう(笑)。

水口:でも、どうしても作りたかった。理由はわからないのですが、今このタイミングで「作らなくてはいけない」と感じたのです。だからもう、あの手、この手で、役員を説得してというか、丸め込んで(笑)。

武田:『Rez』 は深さのあるゲームです。

水口:それが本当だとすると……本能から、音楽そのものを考えたからかな。集団でシンクロするときのグルーブ感は、一体どこからやってくるのか、とか。バラバラの状態から、なぜリズムが合って、一体感が生まれるんだろう、そのプロセスは、一体どうなってるんだろう。そんなことをずっと考えてました。プロセスが見えないと、体験にデザインできないんです。

武田:リズムとハーモニーがあれば、言葉はいらないと感じます。私も、今、ベルリンに拠点があるのですが、パートナーとハードな交渉が必要なときほど、ホームパーティで一緒に同じ音楽を浴びて、関係性を深めた後の方がやりやすいと感じます。言葉だけでは通じないことも通じる。

水口:音楽は世界中の人が理解できて、説明の必要もない。本能的につながれるから、いいですよね。

武田:2001年に『Rez』をリリースし、世界中でヒットしました。その後、『ルミネス』(2004年)などを発表し、水口さんは2006年に全米プロデューサー組合が選ぶ「Digital 50」(世界で注目すべきデジタル系プロデューサー・イノベーター50人)に選出されました。

水口:『Rez』は別に大きくヒットしたわけではなく、ゆっくりとしたスピードで広がっていったゲームです。体験した人が、別の人に「うまく説明できないけど、とにかくやれ」みたいな(笑)。説明ができないけれどゲームをした人が熱っぽく語るので、じわじわと浸透していったんじゃないかと思います。

武田:水口さんの作品は、言語化しにくいから……。

水口:まあ、体験って、そもそも言語化するのが難しいですよね。それが新たな体験だとしたら、なおさらですよね。でもね、2016年にVRで『Rez Infinite』を作ることができて、ようやく本来作りたかった世界に近づくことができた。2001年当時、頭の中にあったオリジナルのイメージに近いものです。そのVR体験は、音も、映像も3Dだし、共感覚的な体験だし、さらに26個の振動子が埋め込まれた『シナスタジア・スーツ』という全身触覚スーツを開発したんですが、これを着て『Rez Infinite』を体験すると、もっと…… 皆さん言語化するのが難しいと思います(笑)。


水口哲也◎エンハンス代表、シナスタジアラボ主宰。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。シナスタジア(共感覚)体験の拡張を目指し、創作を続けている。2001年、映像と音楽を融合させたゲーム「Rez」を発表。その後、音と光のパズル「ルミネス」(2004)、指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)、テトリスのVR拡張版「Tetris Effect」(2018)、音楽を光と振動で全身に拡張する「シナスタジア・スーツ」(2016)、共感覚体験装置「シナスタジアX1 – 2.44」(2019)など。エッジ・オブ共同創業者兼取締役。 enhance-experience.com

連載:“絆”の進化論 / 企業の遺伝子
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文=武田隆

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