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“絆”の進化論 / 企業の遺伝子

(左)エンハンス代表 水口哲也(右)クオン代表 武田隆

「これからのUI/UX(ユーザーインターフェイス・ユーザーエクスペリエンス)は、VRに席巻される」という主張を聞いて、完全に否定することのできる人は少ないだろう。かといって、VRに取って替わられる世界がどうなるのか?と問われても、ぼんやりとしていて、その実感も薄い。

ロボットにしても、AIにしても、自分としての解答を持つことや、それらと共にある未来に向けた姿勢を持つことが難しいのは、それが闇雲に複雑だからというだけでなく、その実態や最前線で行われている試行錯誤を知らないことで、その本質が見えていないからかもしれない。

約30年にわたりVRの最前線に居続けるのが、クリエイター水口哲也氏だ 。

圧倒的な世界観、五感を覚醒させるサウンド。遥かなる宇宙を旅しているかと思うと、グランドキャニオンのような原始的で立体的な風景が眼前に広がる。ステージごとにガラリと変わり続ける演出は、体験したものを異次元へと誘ってくれる。VR版『Tetris® Effect』は紛れもなく、これまで経験したことのないテトリスであり、また新しい体験の創造だ。

テトリスという古典的なゲームを、最新の技術を駆使したVRの中に存在させるという挑戦は、シンプルな逆説のようで、その中身は全く簡単なものではない。興奮と沈静、感動と熱狂など様々な感情が波のように押し寄せるストーリー構成は、体験の本質を追求した先にしか生まれない。

この作品を世に送り出したのが「体験の拡張」をつねに追い求め、表現し続けているエンハンス代表の水口哲也氏。そんな世界的ヒットメーカーである水口氏にVRが可能にする体験価値の未来を聞いてみた。


リアリティを拡張し、体験をデザインしたい

武田隆(以下、武田):水口さんは大学卒業後、セガ・エンタープライゼス(後のセガゲームス)に入社されたんですよね。これまでどんなゲームを開発してきたのかを、あらためてお聞きしてよろしいでしょうか?

水口哲也(以下、水口):入社した1990年頃はゲームではなく、モーションライド用の映像と音と動きのデザインをしていたんですよね。

この頃、セガが『2001年宇宙の旅』の特撮監督で知られるダグラス・トランブル氏と共同開発契約をしていたので、マサチューセッツ州にある彼のスタジオによく通っていたのですが、そこでユニバーサル・スタジオのために制作されていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド』の開発に携わっていたマイケル・アリアス(のちの映画『鉄コン筋クリート』監督)に出会いました。

彼は当時、ニューヨーク大学で日本映画専攻の学生だったんですが、その後来日し、一緒にテーマパークのモーションライド用のフルCG映像を制作しました。

武田:モーションライドというのは、映像に合わせて動いたりする乗り物のことですよね。入社直後から、コンピューターグラフィックとサウンド、モーションを融合、連動させるという仕事をなさっていたんですね。

水口:当時はまだCGの経験者が少なかったし、デジタルで体験を統合的にデザインする、なんてことをやっている人が少なくて、スタッフを探すのに本当に苦労しましたね。この頃から、3DCGの技術が世の中に浸透しはじめ、ゲームの世界にもインタラクティブなCGの時代がやってきます。最初はアーケードゲームから始まったのですが、その頃に僕が初めてプロデュースした作品が『セガラリー・チャンピオンシップ』(1994年)です。

武田:そういう流れだったんですね! 『セガラリー・チャンピオンシップ』はその当時かなり斬新なものでしたよね。その時からリアルに近づけようという狙いがあったのですか?

水口:うーん、当時はリアル(現実)に近づけるというより、もっとリアリティ(現実感)を拡張させたいと思っていました。地面から砂利を巻き上げる音や振動、着地するときの体感などの気持ちの良い部分を抽出し、「デザインされた体験」を作りたいと思っていましたね。

武田:もともとアーケードゲーム(アミューズメントパークなどに設置されている業務用ゲーム機)で出すことを想定していたのですか?

水口:いや、実は当初は実車を使った巨大なテーマパーク用のアトラクションを企画していたんです。

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1997年に制作された「セガラリー・チャンピオンシップ」の実車版アトラクション Sega Rally Championship Special Stage (c)SEGA

文=武田隆

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