キャリア・教育

2019.05.18 11:00

AI遠隔診断で途上国の人々を救う。13歳で日本を飛び出し、見つけた居場所と未来像

miup 代表取締役 酒匂真理

miup 代表取締役 酒匂真理

人口約1.6億人のバングラディシュでAIなどのIT技術をつかった遠隔診断から薬のデリバリ、臨床検査といったサービスを提供する東京大学発ベンチャー企業miup。その組織を率いるのが酒匂真理だ。

家族全員が医師という、医師一家に生まれた酒匂。自身も物心つく前から医師になることを当然視されてきた。小学生で不眠症になるほど、将来の選択肢がないことに深く思い悩んでいた酒匂は、13歳の時に人生の舵を大きくきる。家出同然で海外に飛び出した。それから約20年。彼女をいま支えるのは、意外にも嫌がっていた自身のルーツだ。

──2015年に設立したmiupについて教えてください。

miupはバングラデシュなどで遠隔医療・検診サービス、臨床検査センター運営、医療ソフトウェア開発と、主に3つの事業を展開しています。

1つ目の遠隔医療サービスは、都会に住む富裕層や中流層に向けたデリバリ型の検診サービスです。ウェブや電話で予約をすれば、医療従事者が自宅に来て血液検査などを行い、それらのデータを自社ラボで解析。診断結果を受けて、必要があれば医者とリモートでつないだり、薬をデリバリしたりします。現段階における、miupの収益源です。

2つ目は、臨床検査センターの受託と運営事業です。遠隔医療サービスを提供するにあたって自社のラボが必要になったことが、事業展開のきっかけです。そのうち、現地で「質がいい」との評判が立ち、他の病院などからも臨床検査を受託するようになりました。最近では現地に設立した子会社を通じて、バングラデシュに進出した日系企業が医療機関を新設するときの顧客管理システム開発や検査センター運営なども行っています。

3つ目が、AIを活用した検診・遠隔医療システムの開発です。miupはそもそも、世界の隅々にまで医療を届けるというミッションの下、ソフトウェア開発事業を軸にバングラデシュに進出しました。当初は、簡単な問診で病気を特定しトリアージできる遠隔医療の診断補助システムを作っていましたが、現在は、大量の検査数値を相関分析することで、BMIや血圧などの簡単な数値を基に疾患リスクが高い人を抽出する「AI検診モデル」を構築しています。

現段階で収益源になっているのは1と2の事業で、3は研究開発段階です。2018年度から国際協力機構(JICA)やコニカミノルタ社とともに、AIベースの検診・遠隔診断ソフトウェアの実証試験を進めています。急激な経済成長に伴い、バングラデシュでは糖尿病など慢性疾患に悩む人が急増中です。このサービスが生活習慣病対策に役立てばと考えています。

──なぜ、バングラデシュで事業展開しようと決めたのですか。

起業をする直前、約3カ月かけてアジアからアフリカまでめぐりました。そのなかで、ナイジェリアの現状を知ったのを機に、バングラデシュで事業を手掛けようと思い至りました。

途上国が経済発展する過程においては、海外直接投資は重要な要素です。当時、アフリカで最も直接投資が流入していた国の一つがナイジェリアでした。2013年当時で人口が約1.7億人とアフリカ諸国の中では多く、経済成長率も対前年約6%。市場は活況を呈していました。

そのとき、ふと思ったのです。バングラデシュの人口は(2013年時点で)約1.6億人だけれど、外資系企業の進出は遅れている。この段階で進出すれば、ビジネスを展開しやすいではないかと。

バングラデシュは人口密度が世界一といわれています。経済成長率は世界第3位で、医療の市場規模は年率10%の成長を見せています。一方で、医療機関や保険制度は不足しています。ITを使った医療サービスを提供し、市場を開拓する意義は大きいと考えました。今はバングラデシュで実績を積むことにより、他国にも横展開できると考えています。
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構成=瀬戸久美子

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