パソコン1台あれば、プログラミングを学習して、アプリを開発できる時代だ。生まれたときからデジタル環境に触れてきたミレニアル世代以降の若い人たちにとっては、「起業」はかなり身近なものとして存在している。とくに、成長意欲や能力のある学生にとっては、起業は、将来への魅力的な選択肢のひとつとして意識されるようになってきている。
私は現在、地元の福岡を拠点として、「F Ventures」という独立系ベンチャーキャピタルを運営している。ブロックチェーンを用いた政治コミュニティ「PoliPoli」やAR領域の「Cynack」など、都内のシード期スタートアップに投資するとともに、福岡での起業支援、とくに学生起業の支援にも力を入れている。
私が投資しているPoliPoli のCEO伊藤和真は、実は私の会社F Venturesでインターンをしていた。そのとき、彼に運営を任せていた、スタートアップに興味がある学生の交流会「TORYUMON TOKYO」は、1カ月もかからないうちに200名もの参加者を集め、イベントも大成功に導いた。
その圧倒的な動員力とスピード感にいたく感心し、彼がF Ventures在籍中に会社登記をし、スタートアップとして羽ばたいたPoliPoliにも惚れ込み、出資を決めた。
PoliPoliでの伊藤和真は、「学生の特権」を上手に利用していた。創業後5カ月にして、中央政界の著名な政治家を招き、若い世代向けの政治イベントを開催した。政治家にとってみれば、主催が学生ということもあり、彼らを応援する気持ちで受け入れてくれたのだと思う。
また、自分たちが開発したアプリをもって、若手の有望な政治家に会いに行っている。社会人であれば、ビジネス上のメリットを問われたり、利用されるのではないかと勘ぐられたりするのだろうが、学生ということで、かなりハードルは下げられているように感じた。
デメリットの少ない学生起業
このように学生起業にはメリットがある。というか、逆にデメリットが少ないとも言える。家庭を持つ人間や企業で従業員として働いている人間に比べ、失敗した際に失うものが少ない。なので、よりリスクの高い事業にも挑戦できる。
学生起業とはいえ、失敗したら多額の借金を背負うのではないか、と訝る人もいるだろうが、エクイティファイナンスを適切に利用すれば、それらを回避することもできる。また、仮に失敗して、会社を畳んだとしても、事業経験のある学生を採用したいベンチャー企業は数多く存在するし、就活するとしても大きなアドバンテージになる。
そんなデメリットが少ない学生起業の有利な点に、気づいてもらいたいというのが私の思いだ。「自分でもできるんだ」と思い、学生起業が増えれば、エグジットの成功事例も増えるだろう。福岡でF Venturesを運営している私としても、そうなれば地元にも貢献できるし、自分の愛する街が、スタートアップナンバーワンの都市になるよう、プラスのサイクルを生み出せる。