真夜中の救急医療の現場では、こんなため息も少なくありません。
道端で倒れていた人が運ばれてきたときに、例えば年配の方であれば「持病が悪化したのか?」「普段から飲んでいる薬がありそうだから処方には気をつけなくては」など様々なことを想像します。しかし、バッグの中にクリニックの診察券を見つけたとしても、夜中では電話が繋がらず、治療中の病気やアレルギーなどが分からないまま診察を開始します。
こんな時は、血液検査で基本的なデータを取ったり、全身の画像検査をしたり、まずは多くの検査を行うことから始めることも少なくありません。一刻を争う救急現場であっても、患者さんの状態を把握するまでは、いきなり治療には進めないことも多いのです。
医療機関の診療情報がネットワーク化されていれば、すぐに患者さんの状態を把握でき、余計な検査が減ったり、最善の処置を速やかに行うことが可能になるのではないか? 研修医時代に救急現場で感じた疑問でした。
医療情報をポータルサイトで確認できる世界
デンマークや北欧では、こうした問題を解決する「医療情報の共有」がかなり進んでいます。個々の医療機関がもつ検査結果や電子カルテの情報などを国が「患者単位」で一括データベース管理しています。冒頭のような救急のケースでも、患者の主な医療情報をデータベースから閲覧できるので、スムーズに治療にうつれます。
患者側からもこうした情報は確認できます。デンマークでは、日本でいうマイナンバーのような「CPRナンバー」でログインできる公共ポータルサイトが発達しており、マイページ上では、転入・転出などの行政手続きはもちろん、過去の通院や処方などの医療情報も確認できるのです。
処方箋などもデジタルで発行されます。先日、デンマークでオンライン診療の普及に尽力したオールボー大学の教授にお会いしましたが、日本は処方箋は紙が原則だと話したら、かなり驚かれました。それほどまでに、デンマークの医療では「デジタル化」が当たり前のものとなっているのです。
医療情報をデータベースで管理、共有し、医療機関や患者がアクセスしやすくするという構想は、日本でも掲げられています。もちろん実現に向けて多くの壁もありますが、近い将来実現されることは間違いないでしょう。
それにより、医師にも患者にも大きなメリットが出ることはすでに述べた通りです。また、現在でも町のお医者さん(診療所)の7割がまだ紙カルテを使っていると言いますから、それら診療データが電子化され、きちんと管理されながらデータとして蓄積、活用されていけば、医療の進歩に役立つことも期待できます。