新時代は、アウトプット先行で

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北海道が1位なら、北の方だろうか。「青森」。「違います」。それでは面積が広い県か。「岩手」「福島」「長野」……。「違う」。

当てずっぽうに言っているうちに、正解にたどりついた。長崎県だ。ちなみに第3位は鹿児島県。実際のところ、生産量の8割方は北海道が占めるが、次に多いのは九州だったのだ。

「それではなぜ北海道が1位で、長崎県が2位なのか」。先生は私たちにその理由を考えさせ、調べさせた。その過程で、私たちは様々なことを自ら学ぶことになった。

1600年ごろにインドネシアのジャカルタを拠点にしていたオランダ人が、長崎の出島に初めてじゃがいもを持ち込んだらしいということ。その後北海道にも持ち込まれたこと。じゃがいもには男爵いもやメークインといった品種があること。ジャガイモは涼しい気候を好むため北海道の生産量が圧倒的に多いが、長崎県や鹿児島県などでは年に2回、「春作」と「秋作」がなされ、北海道のじゃがいもが出回らない端境期に九州産のニーズがあることなどだ。

国内生産量の1位は北海道、2位は長崎県、ということだけをインプットしてしまえばテストはクリアできるのかもしれないが、「なぜか」というアウトプットを求められたおかげで、じゃがいもを通じて様々なことをインプットすることができた。先生の授業は往々にしてこんな感じで進んだ。

逆に、背景や理由がわからないまま、ただ機械的にインプットをすることが苦痛になった。しばらくアウトプットの機会がなければ、どんどん忘れていってしまうのだ。私は特に暗記が苦手だった。

私たちは調べものをしたり、アウトプットをしたりする際の「技法」も少しずつ学んでいった。

1998年の教育課程審議会の答申に基づき2000年度に「総合学習」が一斉に導入されたが、国立の実験校だったからだろうか、それ以前から小学校のカリキュラムに総合学習の時間があった。個々人でテーマを決めてリサーチをし、レポートにまとめて発表した。世界地図で気になっていた世界最大の島「グリーンランド」について調べ、発表した覚えがある。

W先生の体育の授業は、運動が苦手だった私でも最高だった。

例えば短距離走。「誰が速いか」ではなく「誰がどれだけ速くなったか」、つまり個々人の成長を評価してくれたのだ。

短距離走を、そのタイムを決める様々な要素に因数分解し、ポイントごとに練習させた。スタートのタイミング、手の振り方、脚の上げ方、目線の置き方、ゴールの姿勢など、一人ひとりが自ら弱点を見出し、改善できるよう促した。それまで50メートル走で10秒以上かかっていた私は、最終的に8.4秒に縮めることができた。「良かったな」と先生が声を掛けてくれたことは忘れられない。

6年生になり、W先生はクラスを6つほどのチームに分けた。ハンドボールをやるのだという。クラスは年間を通して、ひとつのハンドボールリーグになった。

最初に先生が各チームに命じたのは、これからチームが守っていくハンドボールのゴール作りだった。ゴールの入り口の縦横と奥行きの深さは決められていたが、あとはどのように設計するか、各チームに任された。私たちのチームはできるだけ相手チームからゴールを小さく見せようと、奥に向かって小さく見えるようなゴールを設計した。設計図に基づいてパイプを組み合わせ、白と水色で塗った爽やかなゴールができた。

ハンドボールのルールを覚えると、毎回の授業前に各チームで自主的に作戦会議が開かれるようになった。クラス内リーグの星取り表で「負け」が混むと悔しがり、勝つためにどうすればいいかを皆で考えた。メンバーの適性を見極め、相手チームとの組み合わせなども考えて、毎回誰がどのポジションにつくか、どのように攻撃するか、拙いながらシミュレーションをした。

自主練をするチームも出てきた。誰もが未体験の球技だからか、個々の身体能力の差よりも、日々チームが成長していく面白さを全員が感じていた。

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文=林亜季

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