近親者間暴力の被害女性に多い脳損傷 認識進まず隠れた問題に

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外傷性脳損傷(TBI)と聞けば、ほとんどの人はすぐに全米プロフットボールリーグ(NFL)の選手や交通事故、ひどい転落事故などを思い浮かべるはずだ。しかし、全く認識されず治療もされていないある問題が世界中でまん延している。それは近親者間暴力だ。

近親者間暴力は女性に対する暴力の中でも世界で最も一般的なもので、15歳以上の女性のうち身体的・性的な近親者間暴力を経験している人は3人に1人近くいる。この問題は、全ての社会経済・宗教・文化的グループに共通し、あらゆる状況で起きるものだ。

驚くことに、近親者間暴力によって負う損傷の最大90%が頭や顔、首に対するものだ。また、相談・臨床心理学ジャーナル(Journal of Consulting and Clinical Psychology)に2003年に掲載された論文によると、近親者間暴力を経験したことがある女性の75%が少なくとも1つの外傷性脳損傷を負い、50%近くは複数の外傷性脳損傷を経験していた。

近親者間暴力を経験する女性が、外傷性脳損傷を抱える人と同様の症状である「集中力や記憶、頭痛、鬱(うつ)、不安、疲労、睡眠」などの問題を報告していることは驚きではない。

ハーバード・メディカル・スクール助教のイブ・バレラ博士は、自身のデータから推定すると「近親者間暴力に関連した外傷性脳損傷を抱える女性の数は、軍隊とNFLが報告している外傷性脳損傷や脳振とうの数を合わせても全く及ばない」と述べた。「深刻な身体的暴力を受ける女性の年間推定数が320万人なので、160万人の女性が近親者間暴力に関連した外傷性脳損傷を繰り返し経験していると推測される。軍隊やNFLで報告される外傷性脳損傷の数は、年間計それぞれ1万8000件と281件だ」

バレラ博士は、こうした人口集団の全てについてさらに調査を重ねる必要があると示唆する一方、スポーツ選手や軍関係者における外傷性脳損傷の研究は増えているのに、近親者間暴力に関連した外傷性脳損傷について発表された画像研究はわずか2つしかないと指摘した。この2つはどちらも、バレラ博士のものだ。

複雑な背景

この問題が理解しづらい原因は脳損傷に関する研究不足だけではなく、女性に関する研究が全体的に不足し、脳損傷における性の違いが極端に過小評価されていることなど複数の交絡因子が影響している。また近親者間暴力に苦しむ女性は、パートナーへの恐怖、家庭内暴力(DV)に関連した社会的スティグマ、日々の生活におけるリソース不足などから調査に参加できないことが多い。
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翻訳・編集=出田静

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