日本人建築家が推進 アメリカで進む「フードハブ」プロジェクト

ケンタッキー州ルイヴィルで進む「フードハブ」プロジェクト(写真=大中啓 D-CORD)


かくしてハーバード大学デザイン大学院で「Alimentary Design Studio」が始動。重松は食を取り巻くさまざまなトピックスを取り上げた。そのなかで学生たちととくに議論を交わしたのが、都市に広がるフードデザート(食の砂漠化)の問題。低所得者層など社会的弱者が住む地域で商店街などが閉店し、生鮮食品の供給体制が崩れて、買うことができなくなってしまう現象だ。

「低所得者層は手っ取り早くカロリーを取りたいので、ファストフード店に行ってしまう。だから、自分たちで生鮮食品を調理するという知識が身に付かない。それで肥満や早死がどんどん増え、それに伴い医療費がかかるという悪循環が起こっています。かつて人は、自らの手で野菜や穀物や家畜を育てていましたが、都市に暮らす人が増えた今、食の生産と消費の現場に隔たりができてしまいました」
 
農産物の流通が停滞しつつある問題を解決するため、地産地消を推進する動きは徐々に増えてきたという。しかし、国土が狭い日本はともかく、アメリカのような広大な国ではファーマーズマーケットに買い物に行くだけでもひと苦労だ。

「中産階級以上の人はまだしも、低所得者層がわざわざ値の張るファーマーズマーケットまで野菜を買いにいくことは思えません。また、農家側にも負担がかかる。時間を費やす割に売り上げはたかが知れていて、持続可能なモデルとは言い難いのではないでしょうか」
 
それらの問題を解決する試みとしてスタートしたのが、冒頭で紹介したケンタッキー州のフードハブだった。
 
最後に重松は、日本の食の現状を憂慮しながら、こんな言葉を残した。

「日本人の食に対する意識は相当高い。世界一と言っても過言ではないと思っています。しかし、食料自給率は40%以下と他の国と比較してみても、とても低い。今後、世界的に人口が増えれば、食を生産する国が力を持ってくると思います。実際、穀物と野菜が豊富に生産されるアメリカとカナダをまたぐ地域『カスカディア』では、過去に独立主権国家を目指すという話まで出ていました。食が国境を変えるというシナリオはあり得ます。日本人も自給自足にもっと積極的に取り組むべきだと、私は研究を通して感じています」


重松象平
◎建築家。建築設計集団OMAパートナー、ニューヨーク事務所代表。これまでコーネル大学建築芸術学部新校舎のミルスタイン・ホール、ケベック国立美術館、マイアミの多目的施設であるファエナ・アートセンターなどを手がけた。現在進行中のプロジェクトには、ニューミュージアム美術館増築、デンバー美術館でのディオール回顧展などがある。福岡市の天神ビジネスセンターは、2021年度竣工予定。

文=甘利美緒

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