日産自動車前会長のカルロス・ゴーンが役員報酬をめぐる有価証券報告書の虚偽記載容疑で逮捕された。開示されていた金額だけでも日本企業の役員報酬としては破格だが、それでは足りなかったらしい。ニュースを見て、私の患者の中にもストレスにさらされ続けて生活習慣病を発症し、来院する成功者がたくさんいることを思い出した。
ゴーンはなぜ、逮捕される事態に至ったのか。体の不調を訴える“成功者”の患者たちは、なぜ健康を害してまで富を追求するのか。そのヒントは、仏陀の言葉にある。
仏陀は「金貨の雨を降らせ続けても、人は満足しない」という言葉を残したと、禅僧から聞いたことがある。人は、何かの目標を達成しても満足することなく、さらに高い目標を目指すので、不満足の状態が持続する傾向がある。だからこそ人間のそうした傾向を自覚した上で、向かうべき方向を意識して、自分を律することが必要だと考えている。
心理学の世界では、人の行動の8割以上は無意識下にあると言われる。つまり私たちは物事の多くを意識せずに選んでいる。
例えば平日の昼間にフェラーリに乗っている人を見かけた時、あなたはどう思うか? サラリーマンである友人は「とんでもない奴だ。何か悪いことをしているに違いない」と言う。彼は昼間からフェラーリに乗っているような「金持ち」に対して「鼻持ちならない」と嫌悪感を抱く。一方で、自身のビジネスを立ち上げて成功したいという想いもあり、努力をしている。
だが、人は「なりたい」と思ったものにしかなれない。無意識のうちに、なりたい自分になる選択をしてしまうからだ。
フェラーリに憧れる人は、それを買えるような所得、身分になる選択を無意識に続けるだろう。あなたが年収20億円のカルロス・ゴーンを直感的に「心地よい」と感じるなら、あなたは無意識にその立場へ通じる道を選択し続けるだろう。
逆に「あいつだけ上手くやりやがって」と瞬間的に嫌悪感を持ってしまう人は、その道を選ばない。ちなみに「フェラーリが嫌い」と話した友人は、貧しくても地道に勉強する人に共感する傾向がある。そして実際、彼自身もそういう人生を歩んでいる。
だから、社会的に評価されやすい「高収入」「若い」「新しい」といったキーワードに表面的に憧れ、受け入れて追求してしまうと、本来、自分が求める姿とは逆方向に走ってしまうかもしれない。何かに出会った瞬間の自分の感情を冷静に見つめてみると、自分がどうなりたいかが見えてくるはずだ。
年収20億円まで上りつめたゴーンは、あの地位や収入が良いと感じていたのだろう。ただ、同時に「日本企業では、これはもらい過ぎだ」と思っていたのかもしれない。だからこそ今回のような事態に至る選択を重ねてしまった。そう考えると案外、常識的な人なのかもしれないと感じてしまう。
さくらい・りゅうせい◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。聖マリアンナ医科大学の内科講師の他、世界各地で診療。近著に『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。