3度リメイクされる名作に見る、栄光だけじゃないスターという生き方

「アリー/スター誕生」主演のレディー・ガガ(Photo by Dave J Hogan/Dave J Hogan/Getty Images)

アカデミー賞の季節がやってきた。今回は世界的に大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』に、レディ・ガガ主演で話題を呼んでいる『アリー/スター誕生』と、ミュージシャンを描いた映画が二作、さまざまな賞にノミネートされている。

昔から人気があり、一大ジャンルを築いているバックステージもの。私たちの関心をそそるのは、優れたプレイヤーのパフォーマンスのみならず、スターへの階段を上っていく人の素の姿とそれに絡む人間関係という、客席からは見えないなまなましい舞台裏だ。

『アリー/スター誕生』は、3回目のリメイクで、オリジナルは1937年。映画スターに憧れる若い女性エスター・ブロジェットと大スターであるノーマン・メインの運命的な出会いと、両者の明暗が分かれていく様を描いている。そのリメイクが1954年。映画業界という設定は同じだがミュージカル要素が強くなり、1976年の3作目では舞台が音楽業界に移った。

80年代以降の旧作を取り上げてきた本コラムだが、ここでは『アリー/スター誕生』アカデミー賞ノミネートにちなんで、特例的に80年代以前の作品を取り上げたい。年代が古過ぎるオリジナルと同じ音楽業界ものは避けて、ジュディ・ガーランドが主演した『スタア誕生』(ジョージ・キューカー監督、1954)を。

「スター誕生」というか「スター没落」?

ストーリーは既に有名である。

あるショーに出演予定だった映画スターのノーマン(ジェームズ・メイソン)は、酔っぱらったまま舞台に出てしまうが、前座の歌手エスター(ジュディ・ガーランド)の機転で事なきを得る。ノーマンは、バンドの一員として伸び伸び歌っているエスターに魅了され、スクリーンテストを受けるよう説得。

初めて才能を褒められたエスターは、バンドを辞めてナイルズ撮影所と契約し、ノーマンのプッシュで新作ミュージカルに主演、たちまちスターとなる。二人は結婚するが、エスターが活躍する一方で、飲酒のため撮影に穴を開けがちなノーマンは会社上層部の不興を買い、解雇されることに。

無職になったノーマンは家で徐々に腐っていき、アカデミー賞授賞式の夜、エスターの受賞スピーチの最中に泥酔して現れ、「仕事をくれ」と喋り続けて醜態を晒しその場をぶち壊す。

酒を断つため療養所に入ったノーマンを訪問したナイルズは、端役の仕事をもちかけるが、誇りを傷つけられたノーマンは拒否。仕事に追われるエスターは、夫を思いながら悩みを深めていく。

退院したノーマンはふとしたきっかけでまた飲酒し、物損事故を起こすが、エスターの訴えで実刑は取り消され、彼女の保護下に。自責の念にかられるエスターは、映画界を引退してノーマンの傍にいるとナイルズに告げる。それをたまたま聞いてしまったノーマンは、エスターのため自分が消えることを決意する。

イギリスの俳優ジェームズ・メイソンが演じる1954年版のノーマンは、エスターへの愛の深さ、人気に溺れた者の弱さ、幕引きの仕方に滲むなけなしのプライドに、落ちぶれたイケメン大スターのニヒリズムを繊細に浮かび上がらせて私たちを魅了する。もはやタイトルを『スター没落』と名付けてもいいと思えるくらいの名演技だ。

そのノーマンに進むべき道を示され、チャンスを与えられてミュージカル映画に自分の居場所を見出したエスターの、シャイでチャーミングなキャラクターと生き生きしたダンス、堂々たる歌声が素晴らしい。とりわけ、劇中劇となっている初主演のミュージカル映画の場面は、ジュディ・ガーランドの面目躍如といったところ。
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文=大野左紀子

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