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2018.12.23 12:30

ベトナムで挑む建築家が考える「本当の暮らしの豊かさ」とは

トタンや中古木材などの廉価な建材でアジア的な素朴さを残しながらも、見事なまでに静謐な美しさを表現した「チャウドックの家」(住宅特集2017年11月号)


──実際にプロジェクトを進める際、どうすれば建物やその場所に豊かさを見出すことができるのでしょうか?
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まず、近代の特徴の1つに、様々な事物を細分化して規格化し、それぞれに特化した役割を与えてきたことが挙げられると思います。それは特定の「目的」を、規格化された「手段」を用いて効率的に達成するには有効でしたが、いつのまにか本来は「目的」であるべき、「生き方」や「豊かさ」といった概念さえもが、規格化されるようになってきた。

それは建築についても同じで、たとえば住宅は生き方や住まい方を反映する器でもあるのに、日本の新興住宅地に建ち並ぶ住宅群の風景は、とても規格化されていると感じます。私たちはそれぞれのプロジェクトに対して、「どのような豊かさを育むことができるのか」「どのような住まい方を目指すべきなのか」を、施主と一緒に時間を掛けて話し合う過程を大切にしています。

たとえば今、ホーチミンでタウンワーカーたちのアパートを改修する計画が持ち上がっています。通常であれば、築20年の平屋のアパートを解体して、お洒落で効率的な集合住宅を建て直そう、という話になると思うんです。
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でも実測調査をしてみると、増築の繰り返しでそれぞれの住宅の寸法が違ったり、各個室が12平米程しかないために、住人の個性や生活感が共用の路地空間へと溢れ出ていて、それが逆に温かみのある小さな街のような風景を作っていることが分かりました。

他にも、路地の真ん中に美しい光が差し込む中庭があったり、梯子で登っていくロフトのようなスペースがあったりと、考え方次第では既に楽しげで、豊かな空間があちらこちらに存在していました。敷地を見ながら施主と話をしていく中で、「やっぱり改築にしよう」という方向性に自然と話がまとまりました。

「豊かさ」とは決して一様なものではなく、その人にあった、その場所が持つべき要素から導き出すことが大事なのかなと思っています。


労働者用アパートを改修するプロジェクトの実測調査図(左)と検討スケッチ(右)。既存の建物を解体しながら1つ1つの場所性や問題点を確認し、それらを残したり手を加えながら丁寧に繋ぎ合わせることで、多様性や寛容性を内包する住まいのあり方を模索している。(労働者用アパートメントの改修計画; 住宅特集2019年1月号)

──新興都市を中心にジェネリック化が加速していく中、都市がアイデンティティを失わず、豊かに発展していくには何が必要でしょうか?

欧米や日本では、建築家が作ったものに対して自分でデザインを変更する、ということはあまり行われないですよね。でもベトナムや東南アジアでは、お父さんがレンガを買ってきて、セメントを練って、自分で建物を作っちゃうとか、窓を壊して違うものに作り替えちゃうというようなことが、わりと日常的に行われています。

それは建築家にとっては、自分のデザインを崩されることになるので不都合なことです。でも、住んでいる人たちは、「自分の身の回りの環境は、自分の好きなように整えられるんだ」という自信に満ち溢れていて、すごく幸せなことだと思うんです。人とモノとの距離、人と建物との距離が近い、とも言えるかも知れません。

東南アジアの街を歩くと、“市場”のような活気や躍動感を感じませんか? 市場って、区画の大きさなどの緩いルールがある一方で、決められた小さなスペースの中では、棚を作ったり、壁を立てたりと、みんな自由な発想で、アイデンティティ溢れる空間を作っている。かつ、そこで営まれる「売り買い」という人間味溢れるコミュニケーションを通して、沢山の人々が場所や体験をシェアし、更に空間が活き活きしてくる。

この「自分たちの環境は自由に創作していいんだ」という自信と、そこに集まってくる人々の活気が東南アジア的な面白さだと思っていて。それが街全体、国全体で大切にされていけば、欧米などとは違う、活き活きとした多様性のある都市風景に繋がるのではないでしょうか。

経済的な合理性を追求し、寛容性がますます失われていく社会において、お洒落な空間や建物を作ることよりも、人間が自由で力強く生きられるための場所をつくることが、何より大切なことだと思っています。


西澤 俊理◎1980年東京生まれ。東京大学大学院修了後、安藤忠雄建築研究所勤務を経て、ベトナム・ ホーチミン市にてNISHIZAWAARCHITECTSを設立。ベトナム建築学会賞、アルカシア(アジア建築家評議会)建築賞金賞、WADA賞2017など国内外の数々の建築賞を受賞。

連載 : クリエイティブなライフスタイルの「種」
過去記事はこちら>>

文=国府田淳 写真=大木宏行

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