ビジネス

2018.11.08

ビットバレー狂騒から約20年──いま日本のスタートアップに足りないのは「大企業によるM&Aとグローバル化」



フェイスブック創立者、マーク・ザッカーバーグ(photo by Justin Sullivan)

一方でアマゾンやフェイスブックといった海外企業は、AIやIoTなど新しい技術が育ってきたタイミングで一気に赤字のベンチャー企業を買収する。R&Dのアウトソースとして、スタートアップを活用しているわけです。だから有力な技術を、市場で求められているうちに一気にビジネス化することができる。また、開発リソース確保のために買収をするため、その時点で赤字のベンチャーを買うことも可能です。

一方で日本企業は自前でR&Dに取り組み、事業化を目指す傾向が強く、売り上げや利益の拡大目的でベンチャーの買収も考えてしまいがちです。それでは、変化のスピードが早い現代のマーケットの流れに追いつけません。また、赤字のベンチャー企業を買収できないのもこれが理由です。利益の何倍というベンチャーの株価の評価手法に依存してしまっています。

大企業によるM&Aの数を増やし、グローバル化を促進すべき

ここまで確認したように、日本のスタートアップ・エコシステムが抱える大きな課題のひとつは、スタートアップのM&Aが少ないことです。いまは成功したスタートアップがIPOをして、事業に行き詰った企業はM&Aされる面もいまだ少なからず残っていますが、本来的には大企業がもっとR&Dのためにスタートアップを買収し、大企業に新しい風を吹き込むべきなんです。

また、買収されたスタートアップの社長も、大企業で数年間働いた後、エンジェル投資家になる動きも活発になっています昔は「買収=身売り」と揶揄されていましたが、起業家が大企業に加わった後に経営層まで上り詰めるケースや、メルカリの山田進太郎さんのように新たに会社を立ち上げるなど、多様なモデルケースが生まれています。

特にシリアルアントレプレナー(連続起業家)はスタートアップ・エコシステムを活性化させる上で重要な存在です。1度目で起業を成功させるのは大変ですが、何回も繰り返すことで確実に成功率は上がります。シリコンバレーやイスラエルではシリアルアントレプレナーが非常に多い。シリアルアントレプレナーを誕生させやすくするのが、エコシステムの力です。

もうひとつの課題はグローバル化。日本では未だに世界レベルで成功しているスタートアップの数が少ない。いまイノベーションが盛んな地域はシリコンバレーのみならず、テルアビブ、ロンドン、バンガロール、北京など世界に約20カ所ほどあります。私もよく現地の視察に訪れますが、日本の起業家がレベル不足と感じることはありません。しかし、なぜか世界で成功している人はいません。

原因として考えられるのは、最初から世界を狙っている人が少ないことです。世界一を目指すと言い続けてやり続けている起業家は非常に少ない。日本スタートアップのほとんどは、まず自国で成功してからグローバルのマーケットを獲りにいく。一方で海外のスタートアップは、最初からグローバルのマーケットを見据えている。

また、世界を目指すと宣言している割に経営メンバーに日本人しかいない企業も多い。技術や発想では負けていないのですが、マーケット観とチーム力が課題として挙げられるでしょう。

まだまだ可能性に溢れている日本のスタートアップ・エコシステム

スタートアップ業界の投資環境が良くなったことで起業家が増え、それによって投資も増える。日本のスタートアップ・エコシステムはこうした正の循環がうまく回るようになってきました。

また、KDDIグループのSupershipやヤフー入りしたdelyなど、大企業の傘下でアセットを活用するスタートアップのモデルケースがいくつか出てきたため、M&Aが肯定的に捉えられるようになってきた。こうした動きは日本のスタートアップ・エコシステムを活性化に良い影響を与えています。

世界と比較すると、大企業によるM&Aの数はまだまだ少ないですが、私はそこまで悲観的ではありません、ダーウィンの「進化論」と同じで、CVC投資でのノウハウを活かしてスタートアップのM&Aに乗り出す大企業は自然と増えてくるでしょう。

いま、スタートアップを取り巻く環境は大幅に改善しています。今年、経済産業省がスタートさせたスタートアップ集中支援プログラム「J-Startup」は、伸び代があるベンチャーを重点的に支援すると言っています。これまでの政府による支援は平等性を重視し、薄く広くが基本だったのですが、この取り組みは異なる。ここから、さらに良い流れが生まれるのではないでしょうか。

大企業によるM&Aの数を増やすとともに、グローバルに打って出るスタートアップを今以上に増やしていく。これが日本のスタートアップ・エコシステムをさらに加速させていくカギになると考えています。

文=野口直希 写真=若原瑞昌

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