1男1女の母であり、元テッククランチの記者であり、250万ドルを調達したスタートアップの創業者でもあるジャーナリスト、サラ・レイシー(42)。セクハラ文化が横行するウーバーを批判し、同社から名指しで脅しを受けたことも記憶に新しい。
最新刊『A Uterus Is a Feature, Not a Bug(子宮はバグじゃない、“仕様”だ)』で彼女は、膨大なデータを論拠に「企業に女性が必要な理由」を詳述した。その一部をここにご紹介する。
本書第6章のタイトルを引用しよう。「これを読んでも女性の雇用を増やさないなら、あなたはただの性差別主義者だ」。
私の話の舞台はシリコンバレーのIT業界。ある意味、他の産業ほど公然たる性差別はなく、データと結果がすべての実力主義社会だ。
──少なくとも表向きには。
我々はその神話を論破する。そしてなぜ、小さな蔑視や無意識の偏見が、デスクの周りで女性を追い回す男たち以上に有害で、根絶やしにすべきものなのかをあなたに伝えたい。
シリコンバレーは産業としての歴史が浅く、それゆえに両性の平等の縮図として重要だ。ここは世界とその作用をつくりかえてやろうとする人々が働く、理想主義的な世界。その生態系は誕生後約70 年しか経っておらず、できたてのホットな企業が古い企業を呑み込み、シリコンバレーのトップランナーは瞬く間に交替する。ここではデータと結果がすべてだと考えられている。
そう、シリコンバレーはそういう場所であるべきなのだ。
「ブログラマー」がはびこるシリコンバレーの笑えない笑い話
敵意に満ちた環境に耐えかね、IT業界から去っていく女性たちがいる。母であること企業人であることが並立しないという「母親の壁」(という偏見)に直面し、高いキャリアから身を引く女性たちがいる。
こうして、ウーバーやスナップチャット、Yコンビネーターに代表される「ブログラマー(brogrammer:男性優位の価値観をもつシリコンバレーのエンジニアを指す造語)」文化は、ますます悪化の一途をたどる。
この文化の最も滑稽な例を紹介しよう。
ベストセラーIT系作家で、元ウーバーのエンジニアだったスーザン・ファウラーが17年のブログにこう書いている。
ウーバーは彼女の部署の全員に革ジャケットを支給すると約束し、採寸し、注文を入れた。ところがその後、その部署にいた6人の女性たちは、ジャケットは支給されないと通達される。理由は「その部署には注文を入れるに足る数の女性がいないから」だという。
120人以上の男性に革ジャケットを買えるなら、6人の女性にそれを買う予算だって間違いなく取れるはずだとスーザンは上司に訴えた。上司はこう答えた。「君たち女性が本当に平等を望むなら、革ジャケットをもらわないことで平等が達せられることを理解するべきだ」。
大ロットで注文できる男物はかなり値引きされたが、6着の女物には値引きがなかった。女性陣に男物よりもちょっと高い革ジャケットを与えるのは平等でも公正でもないというのが、彼の論理だった。
VCから90億ドル近くを調達し、ラスベガスで開催した社員パーティーにビヨンセを呼んで歌わせた会社の実話である。