キャリア・教育

2018.09.29 12:30

子宮はバグじゃない! 数字が示す「企業に女性が必要な理由」

イラストレーション=ジャコモ・バグナラ


母性が鍛える4つの「筋肉」その4: 共感的なマネジメント
 
ニュースメディアの環境は過酷だ。粗悪なコーヒーとデスクの引き出しに忍ばせたウイスキーの力を借りて、来る日も来る日も徹夜も辞さずに誌面を埋め、何かしくじったり締め切りに遅れたりしようものなら、白髪交じりの編集長の神をも恐れぬ罵声を長々と聞かされる。ニュースの仕事とはそういうものだと、私は教え込まれた。
 
自分の会社を始める前に、私は5人の編集長に仕えた。そのうち2人は傑物で、3人は社会病質者ギリギリだった(2人の傑物が子持ちで、他の3人がそうでなかったのは、おそらく偶然ではないだろう)。
 
怒声と威嚇によるマネジメントは効果的だ。ただし効果は短期的。共感と思いやりを伴うマネジメントには、ずっと持続性がある。問題は、そちらのほうがよほど難しいことだ。
 
14年にリンクトインのジェフ・ウェイナーCEOにインタビューした際、彼は「思いやりのマネジメント」についてこう語った。
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「クソ野郎のように行動するのは簡単なんだ。そういう行動は、怠慢からきている。相手が何を考え、何を感じているかを考えるのに時間を割きたくない。相手のエネルギーや不運な1日などに関わりたくない、というわけだ。(中略)そうすることはかなり疲れる。しかし、それは成長するチームをつくるための唯一の道だ」
 
私が言葉を交わした多くの女性たちと同様、『マリ・クレール』誌のアン・フレンワイダーも、母親になることでよりよい従業員やよりよいリーダーになれるなどとは信じていなかったし、働くことでよりよい母親になれるとも信じていなかった。「そんなことを言う人がいたら、異常に楽天的なフェミニストだと思っていたでしょうね。でも実際、私自身がそうなれたんです」と、彼女は言う。
 
母親として、彼女は自分の娘のお手本になった。ひとりの従業員として、彼女はより生産的になった。そしてひとりのボスとしては、「何が大切か」の視点が変わったと語る。
 
彼女は、他人の時間をより尊重するようになった。「各人がオフィスにもたらすさまざまな才能に感謝するようになりました」と、彼女は言う。

「ただ突っ立って怒鳴りつけるというやり方は、6歳児や4歳児には通じないんですよ。どうしてそんなトップダウンのマネジメント法がオフィスでも通じるでしょう?
 
私がいま我が家で直面している問題は、とにかく子どもたちが人の話をまるで聞かないことです。でもそのおかげで、私の職場でのマネジメント能力は格段にアップしたと感じています。だって突き詰めれば、それがマネジメントという仕事なのですから」

「女性がいまより優位に立てば、男性たちの人生も改善される」

これらの多くは明白だと思えるかもしれない。しかしどう見ても大半の人々は、母親たちが価値あるスキルをもっているなどとは信じていない。
 
だからこそ、彼女らの6割が職場で偏見にさらされた経験をもち、シリコンバレーで働く女性の75%が面接の際に「子どもをもつ予定はあるか?」と質問されているのだ。そして、シリコンバレーの女性の40%は、自分が母親だという事実を隠す必要があると感じている。また女性がCEOを務める企業は、VCの出資先の3%にも満たない。
 
また、企業がジェンダー多様性を向上させない理由として長年受け入れられ、その責任者を放免してきた「パイプライン(THE PIPELINE)」という言葉がある。
 
その論理はこうだ。男性のほうが女性よりも多くコンピュータ科学を学んでいる。大半の企業創業者は技術系だ。最良のベンチャー投資家は企業経営の経験者だ。だからより多くの女性がコンピュータ科学を学び、大成功を収めるIT企業をもっと創業するまでは、女性たちにCEOや取締役やVCのパートナーになる資格はない―。
 
このパイプラインの神話を改めて打ち壊しておこう。1981年に、大学の学位取得者数で女性は男性を抜いた。26年までにその比率は3対2になると予想されている。15年の米『フォーブス』誌によれば、スタンフォード大学でコンピュータ科学入門を学ぶ学生の半数は女性だ。
 
問題は何か。女性や有色人種が企業内で、よりハイレベルの成功を収めることを阻み続けている微妙な性差別主義や人種差別主義だ。
 
本書の執筆中、私は母親たちの資質を理解している10人前後の男性から話を聞いた。
 
彼らは実際、雇うなら母親たちを選ぶと話した。平等という倫理のために多様性を高めるためでも、善人ぶるためでもなく、母親たちなら何があろうと安心して仕事を任せられると知っているからだ。あるいはシンプルに、女性が男性のもたないスキルを会社にもたらしてくれると信じているからだ。
 
その一例がベンチャー投資家のマイク・メイプルズだ。
 
初のパートナーを雇うことにしたとき、彼はあえて女性を探した。そして業界経験の乏しいスタンフォード大学出の数学博士、アン・ミウラ・コーを見いだした。いまや彼女は、『フォーブス』誌のミダス・リストにランクインしたわずか6名の女性ベンチャー投資家のひとりであり、イェール大学の権威ある投資委員会の一員となっている。
 
メンズウェア会社「ボノボス」のアンディ・ダンCEOは、女性たちを「男性とそんなに変わらないが、ちょっとだけ優秀かな」と評する。ダンは言う。「女性のほうが判断力に優れ、共感的だ。同条件で比較すればよりよい起業家だということは自明だと思う。女性のほうが財政面で抜け目がないしね」。
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「ところが我々は、男性が女性の1.6倍も重用される世界に生きている。そのために女性たちは2000年の歴史を通じて抑圧されてきた。それが変わり始めている。次の100年間は女性による支配が進むだろう。支配といっても、私は別に『野郎ども、逃げろ!』なんて言いたいわけじゃない。『女性がいまより優位に立てば、君たちの人生も改善される』と言いたいだけだよ」
 
ダンやメイプルズの直観を明確に裏付ける調査やデータは、膨大にある。それでも男性の多くは、女性たちが本当に仕事に役立つ能力をもっているとは信じないだろう。ならばせめて次のような点で同意したらどうだろうか。
 
母親たちは、世界で最も難しい仕事をこなすに足るだけのスキルを身につけているのだと。それらのスキルは職場で害になるものではなく、選考過程で排除するには及ばないものなのだと。
 
悲しいかな、これでも今日の米国では十分に過激な思想だと見なされそうだ。


サラ・レイシー◎テック系ジャーナリスト。「PandoDaily」および「Chairman Mom」CEO。歯に衣着せぬ論評で知られる。2011年の産休中にテックニュース&調査報道サイト「PandoDaily」を創業、調達額は250万ドル超。「Chairman Mom」はQ&Aを中心としたワーキングマザーのソーシャルプラットフォーム。本記事は、2017年11月刊『A Uterus Is a Feature, Not a Bug』からの抜粋。

文 = サラ・レイシー 翻訳 = 町田敦夫 編集 = 杉岡藍

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