──危ないシーンになった時に本性が出るということでしょうか。
面接だけではなかなか見極めづらいんですが、一緒に働くと感じるものがありますね。私はその「感じ方」を大事にしています。
その「感じ方」を言語化するとしたら、「戦いに絶対行かなきゃいけないんだったら、一緒に行きたい相手」を選ぶということ。「同じ部隊で、ジャングルでのゲリラ戦に身を投じなきゃいけないんだったら、この人とやりたい」と思える相手かどうかということですね。
ちょっと困難な状況に陥ったら、「ゲリラなんて嫌だ、やられちゃう」とぼやくとか、「新野さん、どうするんですか?この戦争から抜け出す術はあるんでしょうか?」とばかり聞いてくる人だと辛いじゃないですか(笑)。そういうイメージの人ではなく「一緒にいると勇気が湧くな」と思える人が良いと思います。
PDCAを高速回転させるための「行動力」
3つ目の素養である「PDCAを高速回転させること」が大切だというのは、不確実性の高いマーケットを全て予想することは誰もできないので、PDCAの高速回転力で勝負が決まるということです。
PDCAを回転させるにあたって何がボトルネックになるかというと、それは「行動」です。
最初から考えることの質で勝負しようとする人が多いですが、とにかく行動して、一次情報を取りに行ける人の方が、結果的に考えることの質が高くなります。「これはいい」と思ったら、すぐその確認の行動に出られることが重要です。
私が日本有数のイノベーターの一人だと思っている弊社代表取締役社長の梅田は、「海の近くに住んでみたいな」と思ったら、すぐ住んでしまうんですよ。
普通は「いつか」海の近くに住みたいと考えるのに、彼は即座に行動に移してしまう。当時はすごく貧乏だったのにも関わらずです(笑)。
で、住み始めた当初、「どう?」と聞くと、「冬だから誰もいないし、1年持たないかも」と笑うんですが、次の夏「やっぱり最高だった!」と言ってくるんです。行動しているからこそPDCAを回す力が強いんですよね。一年ウジウジ考えてるくらいなら行動した方がモノにできます。
──考えることの質の高い人ほど恐怖や不安を感じて、自分が利することや要領のいいこと以外はやりたがらない傾向があるような気がします。
おっしゃる通りです。コンサルティングファームのような頭の良い人が集まる業界からベンチャーに移ってきて、活躍できる人と活躍できない人を分けると、それが分岐点になると思いますね。考えることで解決しようとして、足腰がついていかない人は伸び悩みます。
──そういった方々を変えるメソッドはありますか?
それは事業経験しかありません。『イノベーションのジレンマ』にも「経験の学校に出させよ」という内容があるのですが、優秀だということは即ちポテンシャルがあるということなので、あとはいかに正しい経験を積むかです。
これはスキーと一緒です。本を読んで、「俺、スキー上手くなった」なんて言っていても絶対滑れませんよね(笑)。とにかく、まず滑る。もし座学力があったり、考える力が強かったりするのであれば、たくさん滑る練習をすれば人より速く滑れるようになります。
そのために、弊社では組織が大きくなるとできるだけ組織を分割し、1人1人が自律的な経験を積める小さな事業体にするよう努めています。
ビジネスの基本は「何に向かって」「どんなチームが」「どのように考え行動するか」です。ここまでお話しして来た3つの素養で言うと、「何に向かって」は目の前のお客様と将来のビジョンの両極に向かって、「どんなチームが」は困難な時に団結するチーム、「どのように考え行動するか」はPDCAを高速回転させる。これらは、言うなれば事業を上手く回すためのエンジンです。
では、そのエンジンのガソリンは何か。それは最終的に情熱であり、執念なんですよね。ですから、起業家の素養として究極的に1つ挙げるなら、「本物の情熱=執念が強いこと」。これに尽きると思います。
──内から湧き上がってくるというか、自然に出てくる情熱ですね。
そうですね。その話をしたら弊社のメンバーが「その執念や情熱を強くするにはどうしたらいいか」というとても良い質問をしてくれました。それが判明したら、続々起業家が出てくるのではないかと思うので、乞うご期待ですね。
でも、少なくとも私の仮説としては、「情熱や執念は身につけようと思って身につけるものではなく、既に持っているものを引っ張り出す」ということではないかと考えています。「情熱を強くする方法」ではなく、「どうやったら既に持っている情熱を引き出せるか?」という命題設定にして考えていくべきかもしれませんね。
連載 : 起業家たちの「頭の中」
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