では、日本における幼児教育の現状はどうか。今回から2回にわたり、全国に212園(2018年開園決定済み施設を含む)、約6000人分の保育園事業を手がけるポピンズ取締役、轟麻衣子氏(メイン画像2枚目)との対話を通じて、日本における幼児教育の量と質の改善を考える。
全面無償化したら、待機児童はどうなる?
「日本で良質な幼児教育を増やしていこうと思ったら、何をすべきでしょうか?」という私の問いに対する轟氏の第一声は、「日本は質の議論どころではない、量が圧倒的に足りていない」というものだった。
「ましてや今、幼児教育が全面無償化されようとしているなんて、優先順位が間違っている」と轟氏は言う。
安倍政権が女性活躍に真剣に取り組んできた結果、過去4年間で新たに150万人もの働く女性が新たに生まれたとされている。第一子を産んだ後に復職する女性の比率は、2011年の38%から2016年には53.1%にまで上昇した。これに伴い、2017年4月時点で、2万6000人超の待機児童が生まれている(前年比2528名増)。
当然、これは入園申込手続きをとった人だけを対象にした数字で、潜在的には170万人に達するという試算もある(NPO法人社会保障経済研究所代表、石川和男氏の試算)。
こうした状況下で、幼児教育の全面無償化が果たして必要だろうか。
現在待機児童が増えている原因は料金の問題ではない。すでに生活保護世帯は無料、低所得者層の保育料は低く設定されており、高所得者層でも実際にかかっている費用の数分の一しか自己負担をしていない。「無償化をすると、逆に所得の高い人がさらに得をする構造になる。それでなくても財源が足りない中では、受け皿の整備を優先すべきではないか」と轟氏は話す。
無償化になれば幼稚園へ行く人も多いのでは? と思うところだが、轟氏曰く「待機児童の8割は、0歳から2歳児。幼稚園では受け入れ態勢が整っていない年齢層なんです」ということだ。全面無償化よりも先にやるべきことが、間違いなくありそうだ。
待機児童を吸収してきたのは、私立施設
ここで、近年急増してきたワーキングマザーの子どもたちを、誰が受け入れてきたのかについて、統計を見てみよう。
興味深いのは、2013年以降公立の保育園が1000か所以上閉鎖または民営化されており、また学校法人立の保育園も8割以上減少しているのに対して、株式会社立の保育所が急増している点である。
地方では急激に少子化が進み、その結果公立保育園の統廃合や効率化が進んだが、逆に東京一極集中が続く中、ワーキングマザーが集中する首都圏では自治体の対応が追いつかず、2000年3月の国の規制緩和をきっかけに株式会社がその受け皿を担ってきたという構図のようである。