では「遊び」とは具体的に何を意味するのか、「遊び」を幼児教育の現場で作り出す担い手は、いかに育成されるのか。ここから数回に分けて、教師(ここでは敢えて保育士と幼稚園教諭を区別することなく教師と呼ぶこととする)の量と質の問題を考えたいと思う。
体系立てて考えられた「遊び」の形
米国において、子どもの健全な発育と意欲的な学びを促進するために研究と啓蒙活動を行う非営利団体Alliance for Childhoodが編集した“Crisis in the Kindergarten - Why Children Need to Play in School”では、子どもの発育に有効とされる遊びを、表のように12に分類している。
幼児教育現場では、これら各種の「遊び」を縦糸とすると、年齢ごとの発育過程やスキル習得を横糸とし、「遊びを通じた学び」が紡ぎ出されているようである。かつそれが教師からの提案ではなく、極力その場その場で子どもたちから自然発生的に出てきた題材を使って行われるというから、まさにアートである。
例えば、イエール大学に併設されているCalvin Hill Day Care Centerでは、当初、おままごとセットが”Make-believe play(ごっこ遊び)”のために導入されたが、年齢が上になればなるほど、本来はバリエーションが増えるはずのごっこ遊びの種類が一向に増えなかったという。
そこで、おままごとセットの「トマト」や「キャベツ」といったパーツが本物に似すぎているのではないかと仮説を立てた教師陣が、より抽象的な形状のブロックに置き換えたところ、ストーリーの種類が格段に増え、子どもたちの創造力活性化および言語能力の発達に寄与したというのだ。逆に、個人差はあるものの、2〜3歳のクラスでは、あまりに抽象的な形のブロックだけでは子どもたちはなかなかごっこ遊びに至らないという。「遊びを通じた学び」とは、なかなか深淵なものだと唸らされる。
筆者の第二子がイエール近辺で通う放課後保育つきの別の私立幼稚園でも、カリキュラム開発責任者をインタビューしたところ、真っ先に出てきたのが「遊びの重要性」についてであった。
コネチカット州の幼児発達基準(年齢ごとに、例えば異なる形状が認識できる、とか、生活の中で数をいくつまで数えられるとか、子音の発音をマスターしている、などが緩やかな参考基準として定められている)を念頭に置きつつ、それらを最も引き出せる遊びに基づいた幼児教育メソッドが、年齢ごとにモンテソーリやレッジョエミリアなど異なる教育カリキュラムの中から抽出されて紡ぎ出され、学校独自のカリキュラムが構成されている。
教室の中には考え抜かれた様々な「遊び」を生み出すコーナーや道具が配置されており、教師たちはその中で子どもたちが何を学び、どんな資質を身につけているかを毎日記録し、成長と発育を観察研究しているという。