また、認可保育園で100%の保育スタッフが保育資格を有しているべきという義務づけは、現場感覚からは乖離しているという。実際に、ポピンズの傘下にある認可、認証、事業所内保育所100園を対象に、保護者に満足度アンケートを取ったところ、スタッフの中に占める保育士比率と満足度との間に統計的に有意な相関関係は見られなかったそうだ。
轟氏は、「子育て経験者の経験をもっと生かせるはず。資格があって素質がない人よりは、資格がなくても素質がある人の方が、圧倒的に保育に向いている」と話す。
例えば、東京都が認める認証保育施設のように保育士資格者6割、その他子育て経験者など4割で質の高い保育を目指すのは一つの方法かも知れない。また、現在、認可保育所以外で国が認める小規模保育所、家庭的保育所、企業主導型保育所では保育士比率は50%で良く、そちらに基準を合わせていく方法もあるのではないかと思う。
個人的には、最低限の保育の質の担保という観点から、何らかの基準があって然るべきではないかと考えるが、その前提となるのは、国家資格の試験内容が保育の質と関連したものである、ということである。この点については、次回「質」の議論の回に譲ることとする。
全面無償化より、まずは「全入」
最後に、処遇の問題である。厚生労働省の平成28年賃金構造基本統計調査による産業別の平均賃金を見ると、日本人の平均年収が422万円なのに対して、保育所で働く全職種の平均給与は公立で常勤394万円、非常勤で185万円。私立では常勤335万円、非常勤179万円となっている。
昨年の若干の処遇改善があったとはいえ、日本の未来を担うのは子どもたちであり、その教育や保育に携わる人材の質が教育の質を決めると言っても過言ではないという観点から言うと、より一段、踏み込んだ対策が必要に見える。
ましてや圧倒的に人が足りていないのだから、需給バランスの観点からも給与水準の見直しがさらに進んで当然ではないだろうか。公共サービスの場合は、市場原理が働かないため需給バランスの急速な変化に対応するのが遅れる傾向が強いが、保育園の自己負担料そのもの、そして保育従事者の給与なども例外ではないようである。
ここまで見てきたように、「幼児教育無償化」とは一瞬聞こえがいい政策だが、現場のニーズからはかけ離れたもののように思える。待機児童の8割が0〜2歳児である以上、幼稚園ではなく保育園の定員拡大が急務である。そのためには、施設の新設を促す手立てはもとより、担い手となる保育従事者を増やす手立てを打つべきではないか。
加えて、保育士の国家資格は本当に現場のニーズに即しているのか? 保育士と幼稚園教諭は別の資格であるべきなのか? 現場の保育士や幼稚園教諭と、施設長は同じ資質が求められているのか? 学校を経営する立場として、日本の初等中等教育における教員研修の実情を見ていて、また米国で実際に幼児教育の研修を目の当たりにして疑問が尽きない。
次回は、引き続きポピンズ取締役・轟麻衣子氏との対話を通じて、量だけではなく「質」の問題にも迫ってみたい。
ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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