08年に2人の友人とツイリオを創業したローソンは、その約1年後、あるイベントで自社を紹介することになった。ツイリオの技術を口頭で説明するのは非常に難しいので、ローソンはソフトウェア自体に語らせることにした。
1000人の聴衆を前に、ローソンはしゃべりながらツイリオでシンプルな電話会議をコーディングしていった。ものの数分で彼はアカウントを開き、電話番号を1つ確保した。さらに客席の誰もが理解できる単純なコードをもう数行加えると、彼の電話会議回線は早くも使用可能になった。
「さっきの番号に電話してみてほしい」とローソンは呼びかけた。すると1000人のプログラマーたちが、たちまち1つの巨大な電話会議で結ばれた。続いてローソンがさらにいくつかのコードを書き加えると、今度はアプリが全員の電話にコールバックした。会場中の電話が鳴り始めた時、聴衆は熱狂に包まれたという。
ローソンが見せたこの“宴会芸”は業界の話題になったが、それだけではない。「プログラマーをターゲットにマーケティングする」というビジネス戦略を指し示していたのだ。
ツイリオは使い方が簡単だし、前金も取られない。そこでプログラマーたちは、アイデアを試す時にツイリオを使うようになった。そうしたアイデアがいずれ製品になり、そのプログラマーはツイリオに収入をもたらす顧客となる。従来的な営業活動を一切せずに、顧客が集まるというわけだ。
プログラマーを対象としたマーケティングを採用しているのは、アマゾンのコンピューティングサービス事業も、決済サービス「ストライプ」やアナリティクスサービス「ニューレリック」なども同じだ。こうした企業は、ソフトウェアに力を入れる企業が増えれば増えるほど利益が上がる。
「そういった企業がプログラマーを雇うと、そのプログラマーはツイリオを必須ツールとして携えて入社していきます」とローソンは話す。
アマゾンで出合った「新発想」
デトロイトの郊外で育ったローソンは、ミシガン大学に入学後、プログラミングを始めた。1年次のうちに初仕事で報酬を得たという。
在学中、ローソンは自身初のインターネット・スタートアップ「バーシティ・ドットコム」を創設した。大人数の講義のノートをウェブ上で公開するサービスだ。これが人気を呼び、広告収入を得るようになると、ローソンは大学を中退。ベンチャー投資家から資金を調達してシリコンバレーに会社を移し、およそ200の大学に事業を拡大した。
ITバブルが頂点に達した00年、バーシティは競合企業に買収される。その企業はIPOを申請中だったが、不運にも上場前にバブルが弾け、会社はほどなくして破綻。バーシティは身売りした時に株式でしか支払いを受けていなかったため、ローソンは何も得られずに終わった。