2011年10月、配車サービスのウーバーは、ある警告メールをユーザー宛てに送信した。同社のSMS(テキストメッセージ)機能を請け負うAir2Web社の都合により、SMSで車を手配するサービスが一時的に利用できなくなるという。
「SMSに返信する気がないわけじゃなくて、返信できないんです!」と訴えたそのメールには、Air2Webへの苛立ちがありありと見て取れた。
ジェフ・ローソン(39)も、そのメールを受け取ったユーザーの1人だった。彼は、クラウド上でのテキストや音声の通信を手がけるスタートアップ「ツイリオ」のCEOだ。
スタートアップの創業者といえば、自信たっぷりに大口を叩くイメージだが、ローソンはむしろ控えめで上品だ。そして、エンジニアとしての熱意と起業家としての規律を備えている。
ローソンはこのメールを千載一遇のチャンスと見ると、当時ウーバーの役員だった友人に、こんな短い一文を添えて転送した。
「頼むから、ツイリオを使ってみてくれよ」
それから1カ月もたたないうちに、ツイリオはウーバーのSMSを扱うようになっていた。今では世界のほとんどの地域で、ツイリオがウーバーのアプリ上のSMS、通知、音声通話などを担っている。
ツイリオは、いまや3万社の顧客を抱える。小さなソフトウェア会社から巨大企業まで顧客は多岐にわたり、ツイリオを通して10億台に及ぶデバイスが年間750億回の通信を行っているという。たとえば、出会い系サイト「マッチ・ドットコム」で自分の電話番号を公開せずに恋人を探せるのも、エアビーアンドビーが部屋の貸し手に通知を送れるのも、米赤十字社がボランティアを派遣できるのも、ツイリオのおかげだ。
最大の顧客であるメッセージアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」は、ユーザーの認証にツイリオを使っている。また、オランダの大手銀行INGは先頃、世界各地のコールセンターから17種類のハードウェアとソフトウェアのシステムを撤去し、すべてツイリオで置き換えると発表したばかりだ。
ツイリオは16年6月、まだ利益を出していないにもかかわらず上場を果たしている。調達額は1億5000万ドル。株価は初日から公開価格の2倍近くに達し、約2カ月後にはさらに倍になった。時価総額は46億ドルとなり、知名度で勝るIT企業のボックス(17億ドル)、フィットビット(31億ドル)、イェルプ(30億ドル)などを凌駕している。