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2017.01.12

ジャガー・ランドローバー社が世界で多額の投資を続ける理由

ジャガー・ランドローバー・ジャパン 代表取締役社長 マグナス・ハンソン


非常にアグレッシブな戦略だが、投資や人材のリソースは十分に行き渡っているのだろうか?

「小さな会社ですが、あらゆる方向に大きな投資をしています。その成果は単なる生産台数ではなく、どれだけの利益を上げたか、で測るべきです。ジャガー・ランドローバーは年産約52万台超の小さな企業ですが、プレミアム・セグメントの比率は100%です。例えば、トヨタは力強い企業で、レクサスのような価格帯のブランドも有していますが、果たしてどれだけの利益をもたらしているでしょうか。そう考えると、100%プレミアム・セグメントという重要性を理解していただけるはずです」

コアコンピタンスとなる軽量技術やエンジンについては英国で投資を進める一方で、生産においては、2億4,000万ポンドを投じて英国以外では初となる全額出資の製造工場としてブラジル工場を開設し、現在は、スロバキアにも工場を新設中だ。つまり、将来の成長を見越した投資を先行して行っているのだ。

最も気になるのは、ジャガー・ランドローバーのエクスクルーシブネスを保ちながら、同時に成長できるかだ。ジャガーから初めてのSUVである「F-PACE」が発売され、ランドローバーからは初のコンパクトSUVのコンバーチブル・モデル「レンジローバー・イヴォーク・コンバーチブル」が登場するなど、これまでの両ブランドの文脈にない新しいラインナップが広がっている。

「最新の『レンジローバー・スポーツ』は、世界中でヒットしています。ジャガー・ブランドでは、『F-PACE』のように顧客の要望に応える製品をラインナップしました。同時に、ジャガーにはスポーツカーの歴史があり、レンジローバーには本格派オフローダーというイメージがあります。この良き歴史を将来に繋げる必要があります。

例えば、ランドローバーは"プレミアムSUV”であり、ジャガーは元々がスポーツ・サルーンのブランドです。しかし、限られたラインナップだけで、今の市場を戦い抜くのは非常に難しいことです。過去にはワゴンボディの人気が高かったのですが、各国で激減しています。その一方で、SUVはアメリカのみならず、欧州やアジアでも人気が高まっています。その時代ごとの顧客の望みを汲んで、応えることは自動車メーカーとして当然のことですし、ラインナップを広げて生産台数を伸ばすことは、スケールメリットの確保につながります」

それぞれのブランドの歴史を繙くと、ウイリアム・ライオンズによって1922年に創業されたジャガーは、オートバイのサイドカーの製造からスタートし、1931年に初めて自動車の生産に乗り出し、戦後のレースシーンを席巻した。「E-TYPE」に代表される流麗なスポーツカーに加えて、「XJ」のようなラグジュアリー・サルーンでも名を馳せた。

一方のランドローバーは、第二次世界大戦に前後して、荒れ野を駆け抜ける本格オフローダーを作ることで、自動車メーカーとしての歴史を紡いできた。しかし、その歴史にばかりこだわって、現在の顧客からの要求を無視したのでは本末転倒だ。

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文=川端由美 写真=淺田創 構成=青山鼓

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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