ロックフェラー家の末裔流「海洋資源」の守り方

デービッド・ロックフェラー・Jr. (photographs by Junji Hirose)

ロックフェラー一族といえば、アメリカの現代史そのものである。19世紀末から20世紀にかけて、石油の精製と販売で巨万の富を得て、資本主義社会を加速させた。その4代目が来日した理由を若き友人・伊藤錬が聞いた。

世界の大富豪ロックフェラーと、世界銀行の報告書『Sunken Billions(海に沈んだ財宝)』。両者には共通点がある。財宝探しビジネス? いえいえ、もっと私たちの生活に関わる話である。

私は昨年11月に来日したロックフェラー財団の会長、デービッド・ロックフェラー・Jr.に再会した。ロックフェラー家の長男である彼が、70代になった現在も情熱を傾ける仕事とは何か。

まず、100ページに及ぶ世銀の報告書『Sunken Billions』を紹介しよう。表紙は、海の中を魚のようにさまざまな紙幣が泳ぐイラストになっている。海にお金が沈んでいるという、知られざる損失を意味するものだ。執筆者のひとりで、国連食糧農業機関のラルフ・ウィルマンは、こう語っている。

「いまの状況は、漁師の収入低下、水産企業の利益低下、資源の枯渇、という勝者のいない状態」

漁業管理体制の不備、非効率、乱獲、海洋汚染、地球温暖化によって、海から経済的利益を得ていた人間社会が、多大な損失を被っているという。それは年間500億ドルから1,000億ドルにも及ぶ。

危機に直面しているのは、まず水産業者である。「たくさんの漁師がわずかな魚を追いかけている」状態になり、過去50年間で大型魚は90%減少。漁業はコスト高を招いており、それは魚を口にする私たちにも跳ね返ってくる。水産業者の非効率性と困窮は、ヒトにとって重要なタンパク源が失われかねない事態にもつながるからだ。

海洋版「不都合な真実」といえる報告書のいくつもの数字をそらんじながら、デービッドは「単に、きれいな海を守りましょうと主張するだけで問題が解決するとは思っていません」と言う。彼はこう提唱するのだ。

「資本主義の行き過ぎに伴う問題を、資本主義を使ってよくしていこう」

19世紀末から20世紀にかけて、資本主義を加速させたロックフェラー一族の末裔が言う資本主義の解決方法とは何だろうか。
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伊藤錬 = 文 廣瀬順二 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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