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2015.05.25

「テトリス」ライセンサー ヘンク・B・ロジャースがハワイで取り組む環境問題

ホノルルを一望する高台にあるロジャース宅は、ソーラーパネルでエネルギーを100%自給自足している。




「未来を決めるのは自然の力の生かし方」
HENK B. ROGERS / ヘンク・B・ロジャース
ブループラネット・ファウンデーション 会長


ハワイで環境問題に対して意識の高い人なら、誰もが必ず知っているのがこの人物。
かつてゲームクリエイターとして日本に在住した経験もあり、全世界のテトリスの著作権とライセンスを有するヘンク・B・ロジャースだ。
彼がエネルギー問題に真剣に取り組み始めたのは9年前のこと。「当時、私は自分の会社を売って巨大な富を手にしたばかりでした。
が、その1カ月後に心臓発作に襲われた。救急車の中で思ったのは、まだ全然お金を使ってないのに冗談だろってこと(笑)。それと自分にはまだ何かするべきことがあるはずだ、と。

その後、病院で読んだ小さな新聞記事によって自分のミッションが決まりました。それは今世紀の終わりまでに世界中の珊瑚が絶滅するという内容。珊瑚は海洋全体の生態系の3分の1を左右する。我々何億もの人間が海からの食べ物に頼って生きているのに、それは許されないこと。気候変動や海抜の上昇などすべての原因になっている化石燃料を終わらせなければいけないと痛感し、その活動のために非営利団体のブループラネット・ファウンデーションを設立しました」

現在ハワイの原油輸入額は年間50億ドル。その40%は電力に使われているという。が、ハワイには太陽熱、風、地熱、波力など、それこそ無料の自然エネルギーが無尽蔵にある。「それらを有効活用しないなんてありえない」と、彼は政府や電力会社への憤りを隠さない。
実際、彼自身の家は電力会社の電線がコネクトされておらず、エネルギーは100%自給自足。自宅の屋根にソーラーパネルを設置、最新の電池を備え、クルマは2台のテスラを愛用。自ら再生可能エネルギーへの移行を実践している。「小学校の児童が家庭訪問して30万個の電球をLEDに替えるというプロジェクトも行いました。電球を替えるだけで大きな節約になるし、子どもが説明すれば人々も理解しやすい。まずは人々の意識を変えることが大事」

 政治家へのロビー活動にも熱心で、電力会社の行動を監視する役割をもつPUC(Public Utilities Commission)という政府機関のメンバーの
交代などにもかかわった。いまはLNG(液化天然ガス)を導入し始めようとしている電力会社に猛烈に抗議をしているところだ。「私たちは10人ほどの組織ですが、エネルギーに関しては、ハワイでいちばんうるさい10人なんです(笑)」。彼いわく、さまざまな人種が多様に混在しマジョリティが存在しないハワイそのものが、ひとつの理想の未来像だという。だからこそ、より正しい方向に進んでほしいというのが、切実な願いなのだ。




従来の鉛蓄電池に比べ充電率も寿命も格段に優れたバッテリーを、ソニーと共同開発するという新たな事業も自宅で行っている。まもなく発売予定のこのバッテリーはフル充電で一般家庭の電力2~3日分が蓄えられる。


趣味で宇宙開発にもかかわっている。ハワイ島マウナロアの標高8,000フィートにある所有地内にドームを設置し、ハワイ大学、コーネル大学、NASAと共同で火星居住体験のプロジェクトを行っている。

text by Miho Sauser | photographs by Tetsuya Miura

この記事は 「Forbes JAPAN No.12 2015年7月号(2015/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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