世銀の最新の報告では、2004年から12年までの漁獲抑制率は全世界で1.2%と算出している。抑制とは、漁獲量規制や禁漁区の設定などによる資源管理なのだが、1.2%の抑制では漁業資源が人類にとって適正レベルに戻るのに67年かかる。
しかし、ここにインセンティブを組み合わせて抑制率を5%に増やせば、経済損失は現在の半分にまで下がり、適正レベルに32年で戻る。
04年、デービッドは非営利団体「セイラーズ・フォー・ザ・シー(SFS)」を設立した。マリンスポーツの愛好家を中心に、海洋環境保護などを行い、世界の会員数は3万人を超える。デービッドは海洋資源を元に戻す手がかりは、「私たちのごく身近にある。それは、日々の食卓に並ぶシーフードという切り口だ」と言う。
SFSは「ブルーシーフードガイド」の提供を始めた。「ブルーシーフード」とは、「食べてはいけない」と規制するのではなく、「積極的に食べよう」と推奨する魚である。
例えば、2015-2016年のブルーシーフードに指定されたのは、ヒラメ、マダイ、サンマ、ゴマサバ、サケ、カタクチイワシ、一本釣りのカツオ、メカジキ、天然ブリといった魚から、イセエビや京都産底引き網で捕獲したズワイガニ、北海道産ホタテ、イクラや海苔も含まれる。
「比較的豊富で、おいしい魚介類」が選ばれており、世界の一流シェフによるレシピも紹介している。
「食の安全に対する人々の関心はかつてなく高まっています。こうした時代の潮流を読んだうえで、海の環境保護を社会的なムーブメントにまで高めなくてはなりません」と、デービッドは言う。
つまり、消費する側から生産者を変えていこうという試みだ。ブルーシーフードガイドを学校や企業、レストランで普及させていくことで、大手の外食チェーンや冷凍食品企業にも、絶滅の危険がなく、環境に配慮して捕獲されたブルーシーフードを採用する例が増えているのだ。
また、デービッドは、世銀総裁やモナコ大公などが集まるハイレベルな国際会議「世界海洋サミット」に資金を提供し、各国政府に持続可能な漁業育成を呼びかけている。水産業は、発展途上国の重要な産業に位置づけられているため、雇用確保や貧困削減に直結する。だから、消費の改革と合わせて、大きなムーブメントになりうる、という考えだ。
デービッドの父親の筆による『ロックフェラー回顧録』に興味深い一節がある。父が若い頃の長男デービッドとの溝に悩んだ話だ。父は「日米欧三極委員会」の創設者であり、ソ連など共産圏から中東圏まで困難な外交課題を抱えた地域に果敢に飛び込んだ人物である。冷戦時代、フルシチョフ、周恩来、アラファトといった大物と会談を行った。