長野県の諏訪という土地にはアーティストを惹きつける磁場があるのか、『君の名は』(2016:新海誠監督)、『逃げ上手の若君』(2021~:松井優征作)、『怪物』(2023:是枝裕和監督)など、度々作品の舞台として登場している。
諏訪地方はその起源をはるか数万年前の旧石器時代にまで遡り、いまなお縄文文化の匂いを色濃く感じることのできるエリアである。諏訪湖周辺に、御柱祭で有名な日本最古の神社のひとつ諏訪大社が四社に分かれ鎮座していることもまた、この土地に稀有な深度を与えている。
現在公開中の映画『鹿の國』(弘理子監督、北村皆雄プロデュース)も好評を博している。謎多き諏訪大社の祭礼と諏訪信仰に迫る本作は、年始に封切られると、単館系ながら徐々に上映館を拡大した。すでに公開を終了した劇場も含めると、4月下旬現在で全国45館を超える劇場での上映となっている。ノンフィクション系統の映画としては異例のヒットといえるのではないだろうか。
『鹿の國』がなぜここまでのヒットになったのか、その理由は定かではないが、諏訪という土地の特殊性について音楽家の坂本龍一はかつてこう述べている。
「古層に押し込められて、ほかの場所では見えないものが、ここでは露出していますね」※
ほかの場所では見えないもの──つまり私たちの多くが日常では見ていないもの、それは一体何だろうか?
※『新版 縄文聖地巡礼』(2023:中沢新一との共著、イーストプレス)
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人には元来「直感」という機能が備わっていて、私はどちらかといえば直感優位型の人間である。まず初めに感じたことを大切にし、頭のなかで組み立て直し、何とか現実に適用して生きているようなタイプだ。そのせいか、これまでの人生で何度も痛い目にあってきた。
それはさておき、遡ること7年前の2018年の2月、私は諏訪湖の“御神渡り”(おみわたり)をテレビのニュースで見ていた。“御神渡り”とは湖面に張った氷が裂けて山脈のように盛り上がる現象で、その呼び名もさることながら、視覚的にも聴覚的にも何とも神秘的で美しい自然現象である。
画面越しにではあるが、御神渡りを見た私は「ここには何かある」と直感し、「いつかこの場所に行ってみたい」とも思った。しかしその時の私は、そう心のなかで思うに留まり、時折何かに触れて思い出すに過ぎなかった。
