聞けばこのカレーを日本でいつでも食べられるのは、ここミドリストアだけ。世界広しといえども、サオジカレー専門店は、本場インド以外では、調べうる限りアメリカニュージャージー州に1店舗とドバイにもう1店舗あるのみだそうだ。
濃厚でスパイシーなソースとたっぷりのオイルが特徴的なサオジカレー
なぜスパイスカレーなのか
日本でのサオジカレー第一人者であるミドリストアの竹島隆志さんに、この珍しいカレーを店で出すようになった経緯を伺ってみたところ、それは少々意外なものだった。「もともとぼくは全く別の仕事に従事していたんです。まさか自分が飲食店の経営に携わるとは思ってもいませんでした」
2020年の秋に、イタリア料理店を経営していた弟・大樹さんが突如脳出血で倒れた。大樹さんは一命をとりとめたが、半身に麻痺の症状が残った。入院直後から弟の様子を見守っていた隆志さんは、退院した後のことを見据え、これからは兄弟でお店を経営していくことができないかと考えた。
隆志さんは福祉関係の仕事の経験から、障がいをもつ人のさまざまな社会参加のケースを知っていた。だからこそ弟が仕事復帰する上で、自分が後押しできることはやっていこう、そう決心したのだ。
急性期を脱しリハビリに励んでいた大樹さんに、復帰のアイデアを話してみると涙を流し喜んでくれたという。
日本のサオジカレー第一人者の竹島隆志さん
こうして隆志さんは40歳を前にして飲食の道へと進むことになる。人生塞翁が馬、誰しもいつ何時なにが起こるか分からない。
隆志さんは自身が料理人としての経験がないこと、また大樹さんが以前のように働けないことから、お店の看板を掛けかえることを決断する。そこで選んだのが、スパイスカレーの専門店だ。
素人の安直な考えのように思えるかもしれないが、全く勝算がないわけでもなかった。隆志さんは、スパイスについては自身の体質もあって独学で学んでおり、人並み以上に、いや相当の知識を持ち合わせていたからだ。
また大樹さんが倒れる前に、ランチでカレーの提供を考えていたことも幸いした。トマトのやさしい味わいとよく煮込まれた柔らかいチキンが印象的な、オリジナルレシピの“フェニックスチキンカレー”をすでに完成させていた。
ミドリストアの名物メニュー“兄弟薬膳カレー”。兄のサオジカレー(上)と弟のフェニックスチキンカレー(下)を合いがけしたものだ