今回の松澤宥をめぐる諏訪の旅では、「松澤宥 生誕103年祭」キュレーターの木内真由美さん、Nさんことディレクター那波佳子さんをはじめとして、座談会の参加者、あるいは鑑賞者からも多くの示唆と教示を頂いた。
松澤宥の長女である久美子さんが「(父は)至って普通の父親でした」とおっしゃっていたのもまた印象的だった。松澤宥は日本でのコンセプチュアル・アートの祖とされながら、定時制高校の数学教師であり、家庭人であり、最大19匹の猫と暮らしていた。やはり作品同様と言っていいのか、「異能」な人である、と改めて思う。そして異才が生み出した作品というものは、世の中に「正当に」受け入れられるのには、ときとして時間を要するものではないだろうか。
雪もちらつく諏訪の夜は、3月も中旬ながら随分と冷え込んだ。暖まろうと居酒屋に入り、木内さん那波さんと松澤宥について話しながら、まだかまだかと待ち侘びたおでんがぬるかったことも忘れられない。それが果たして店主のこだわりであったのか、そうでなかったのか──松澤宥の全貌がそうであるように──いまだ謎のままではある。
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最後に、より詳しく松澤宥を知りたいという方には下記サイトをお勧めしたい。
・ψ 松澤宥 生誕100年記念サイト
https://matsuzawayutaka.jp/
・一般財団法人 松澤宥プサイ(ψ)の部屋
https://www.matsuzawayutaka-psiroom.com/
書籍関係は『生誕100年松澤宥』展(長野県立美術館)の図録がよいのだが、残念ながら売り切れとなっており入手困難だ。
松澤宥をメインに扱ったものではないが、『オペレーションの思想──戦後日本美術史における見えない手』(2024:富井玲子 イーストプレス)は戦後美術の流れを体系的にも体感的にも理解するのに非常に役立った。黎明期の日本の現代アートに興味がある方にはこちらもお勧めしたい。
そして少々先の話となるが、2026年2月に長野県伊那文化会館にて開催予定の「諏訪につどった前衛芸術家たち(仮題)」(キュレーターは同じく木内真由美さん)でも松澤宥の作品が展示されるそうだ。何より実物に触れてみることが松澤宥の魅力を知る早道になると思うので、ご都合のつく方はぜひ現地へ。
連載:装幀・デザインの現場から見える風景
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