高級ブランド各社は2025年に入り、すでに厳しい市場環境下でのかじ取りを迫られていた。そこへきて米ドナルド・トランプ政権が、新たな関税政策を通じて世界の貿易秩序を根底から覆そうとしている。ラグジュアリー市場に突きつけられた課題は深刻化する一方だ。
昨年5%減の6410億ドル(約91兆8000億円)に終わるという波乱を経験した高級車市場は、さらなる混乱に身構えている。同2%減の4020億ドル(約57兆6000億円)に落ち込んだ個人向け高級品市場も、これまでに発表された関税が発動すれば、いっそう急激な不振に直面するだろう。
各国首脳がホワイトハウスとの交渉を求める中、高級ブランドの先行きはどう転ぶかわからない状況だ。リーマンショックに伴う2008~09年の大不況後、グローバル化によって個人向け高級品市場にはハリケーン級の追い風が吹いた。だが、今や風向きは変わっている。
「世界は変わり、グローバル化は終焉を迎えた。私たちは今、新たな時代に入っている」。英国のキア・スターマー首相は6日の英紙サンデー・タイムズを通じて、このような見解を示した。
欧州の高級品、米国人は「お得意様」
北南米は世界第2位の個人向け高級品市場だ。2024年の市場シェアは欧州(30%)に次ぐ28%を占め、その消費を米国が牽引してきた。しかも、昨年の欧州市場の成長を支えたのも米国人観光客だった。つまり、米国の消費者というのは現在進行形で高級ブランドの命運を左右するトレンドの発信源なのである。一方、中国本土は昨年、売上が20%落ち込み、市場シェアはわずか12%に低下した。
供給面では、欧州連合(EU)が高級品輸出で世界最大を誇る。ファッション、服飾品、宝飾品、時計、皮革製品、香水、化粧品など、世界の個人向け高級品市場の約70%を供給し、昨年の輸出総額は2880億ドル(約41兆2000億円)に上った。
すでに暗雲ただようイタリア
イタリア国立ファッション商工会議所によると、ファッション業界は国内2位の主要産業で、織物、アパレル、履物、宝飾品、眼鏡、皮革製品などが含まれる。2024年の世界売上高は1060億ドル(約15.2兆円)相当で、前年比5%減となった。
イタリアで生産される物品のかなりの割合をファッション産業が占める。たとえば、プラダは昨年の収益の約17%を北南米で稼ぎ出し、現在ミラノに本社を置くモンクレールは同14%を北南米市場に依存している。
おそらくイタリアで最も有名な高級ブランドであるグッチの親会社ケリング(本社:フランス)は国別のブランド収益を報告していないが、連結収益の24%が北米で計上されている。