昨今、仕事と私生活の境界がますます曖昧になっている。仕事と個人の時間をきっちり分ける「ワークライフバランス」の考え方は、より柔軟で動的なモデル「ワークライフインテグレーション(仕事と生活の統合)」に取って代わられつつある。私たちの脳は、この変化にどう対応しているのだろうか。
ストレスや休息、生産性に関する神経科学が発展するにつれ、1つ明らかになったことがある。私たちの脳は常に忙しくあるようにはデザインされてはおらず、目的を明らかにしたメリハリのある仕事でこそ最高に機能するのだ。脳の自然なリズムに合わせて仕事と休息を組み立てれば、生産性の向上と精神的な健康の維持、そして長期的な成功を手にできる。
脳の働きと休息の仕組み
ワークライフインテグレーションの核にあるのは、長時間働くことよりも「脳の生物学的リズムに沿って賢く働く」考え方だ。神経科学者はすでに、脳のエネルギーや集中力に深く関わる2つのリズムを特定している。
1. サーカディアンリズム── 24時間のエネルギーサイクル
脳のサーカディアン(概日)リズムは起床と睡眠を司り、私たちが自然に最も覚醒する時間帯と疲労を感じる時間帯を決定する。一般的に、認知機能のピークは午前中の中盤から後半、そして夕方の早い時間帯に訪れ、午後の早い時間帯にはエネルギーが落ちやすい。このリズムを乱して深夜まで働いたり、休憩なしで仕事を詰め込みすぎたりすると、思考の明瞭さの低下やストレスの蓄積、燃え尽き症候群に陥るリスクが高まる。
2. ウルトラディアンリズム──90分の生産性サイクル
サーカディアンリズムという大枠の中で、脳は約90分単位のウルトラディアンリズムで活動している。この約90分の集中状態の後、脳は15~20分ほどの回復時間を必要とする。そのため、90分の作業ごとに休憩を挟むほうが、休みなく連続で働くよりも高い生産性を維持しやすく、精神的な持久力も保てる。これらの自然サイクルを無視すると、認知の過負荷や意思決定の疲弊、ストレスの増大を招きやすい。