2021年にハーバード大学工学部の学生だったアレックス・ウルフとベン・ハープ、アイザック・ストルールの3人は、軍事通信や妨害信号の検知テクノロジーを完成させるために、同級生を対象にベータテストを行った。
3人は、小型で低コストな無線センサーのプロトタイプ数十個を友人たちの部屋に設置してもらい、携帯無線で話しながらキャンパス内を歩き回って検出アルゴリズムを改良した。「クラスメートの何人かに変な目で見られた」とウルフは当時を振り返る。
彼らがハーバードの4年生のときに設立したDistributed Spectrum(ディストリビューテッド・スペクトラム)は、いまや国防の専門家や投資家から一目置かれる存在となり、この1年で国防総省や情報機関から700万ドル(約10億5000万円)の契約を獲得した。同社は3月18日、ベンチャーキャピタルのConvictionとShield Capital、テック起業家で投資家のナット・フリードマンが主導したシリーズAラウンドで2500万ドル(約37億5000万円)を調達したと発表した。
Distributed Spectrumの電波探知技術は、アフガニスタンで米軍と国際軍を指揮したスタンリー・マクリスタル元陸軍大将にも称賛された。マクリスタルは、同社のツールが、軍が長年依存してきたレイセオンやL3ハリス製の大がかりで数百万ドルもする機器に比べて安価で使いやすく、優れた代替品になると見ている。彼は、Distributed Spectrumアドバイザーを務め、同社に出資もしている。「安価でどこにでも設置できるため、これまでカバーできなかったものもカバーできるようになる」とマクリスタルは話す。
同社の最も小さいセンサーの重さは1ポンド(約450グラム)以下で、薄いカクテルナプキンの束ほどの大きさだ。現在26歳のハープと25歳のウルフとストルールによると、このセンサーはソフトウェア無線や電力効率に優れたミニコンピュータのNVIDIA Jetsonなどの、1500ドル~2000ドル(約30万円)相当のハードウェアを搭載しているという。このデバイスは信号を自動識別し、その信号がどこから来ているのかをピンポイントで特定する人工知能(AI)アルゴリズムを搭載しており、高度な訓練を受けた技術者を必要とすることなく、戦場の兵士が周囲の脅威を認識できるようになると期待されている。
「何かを検知し、それが自分にとって脅威なのかを判別する技術に対するニーズは非常に大きい」と、ニューヨークに本拠を置くDistributed SpectrumのCEOを務めるウルフは話す。
実際の戦場で役立つ技術
現在、そのニーズが最も大きいのはウクライナだろう。同国では、電波を使った目に見えない激しい戦闘が繰り広げられている。ロシアとウクライナの兵士は携帯電話や携帯無線で連絡を取っている。また、爆弾やミサイルは衛星信号によって目標に誘導されており、FPV(ファースト・パーソン・ビュー)ゴーグルを装着した兵士が爆弾を積んだドローンを遠隔操縦している。さらに、電子戦の専門家たちは、敵の通信を妨害したり、誘導システムを混乱させるためにノイズ信号を発信している。