私たちの自動車や携帯電話は、毎日毎分、天を仰いで導きを求めている。しかし、天に頼らずとも地球の声を聞くことによって位置情報の取得が可能になったらどうだろう?
米国テキサス州オースティンを拠点とするスタートアップ企業「Tern AI」は、衛星を使わなくてもナビゲーションが可能になる画期的な位置測定システムの実証を行っている。この技術は、私たちが世界を移動する方法を大きく変えるとともに、重大な国家安全保障に関わる懸念にも対処できる可能性がある。
空が標的となる時
私たちの現代世界は、驚くほど脆弱な基盤の上に築かれている。航空や交通のネットワークから緊急サービスや送配電網まで、数え切れないほど多くの重要なシステムが、地上約2万キロメートルを周回するGPS(全地球測位衛星システム)衛星に完全に依存している。
「GPSの信号を妨害、破壊、偽装する能力を見せる外国の敵対者による脅威が増大しています。これは恐ろしいことです」と、Tern AIの共同設立者でCEOを務めるショーン・ムーアは語る。「もし、そのようなことが実行されたら、経済は壊滅的な影響を受けるでしょう」
このような懸念は単なる仮定の話ではない。今年2月には米国連邦議会下院の情報特別委員会が、GPSを含む衛星を標的にするロシアの能力は「深刻な国家安全保障上の脅威」であると警告した。もし、衛星測位システムによるナビゲーションが停止させられたら、食品配達から軍事作戦まで、あらゆるものが機能しなくなる。
衛星なしで道を見つける
これに対するTern AIの解決策は、ほとんど不可能に聞こえるくらいシンプルだ。衛星との通信を必要とせず、車載センサーからのデータと地図情報のみから、人工知能(AI)を活用して位置を明らかにする。
同社の「独立位置測定システム(Independently Derived Positioning System、IDPS)」は、独自のAIを働かせ、サードパーティーの地図情報と、車両やスマートフォンに搭載されている既存のセンサー(現代の機器にはすでに組み込まれている加速度計、ジャイロスコープ、その他のモーションセンサー)から得たデータを、解析することによって機能する。このデータを高精細な地図と組み合わせることで、Tern AIは注目に値する正確さで位置を示すことができる。