「宇宙に呼びかけて『私はどこにいるのでしょう?』と尋ねることなく、GPSと同じことができるのです」と、ムーアは説明する。3月中旬に開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で、Tern AIは実際にオースティンの街を車で走りながら「何もないところから位置を測定できる」ことを実証してみせた。保存された地図データと車載センサーのデータだけでスタートした同社のシステムは、車の動きを見事に追跡し、高層ビルが点在する市街地では、位置を見失いがちなGPSを凌ぐ結果さえ示した。
この技術は、屋内駐車場やトンネル内、山間部といったGPSの信号が届かない場所でも機能する。さらにGPSと違って、敵対者から妨害や撹乱を受けることもない。
構想から現実へ
GPSに代わる技術に対し、懐疑的になるのは当然だ。我々は何十年にも渡ってこの技術に依存してきたのだ。しかし、Tern AIは構想から現実的な商用化へ、急速に移行しつつある。
2024年4月にステルスモードを脱したTern AIはシード資金調達で、スカウト・ベンチャーズ、シャドウ・キャピタル、ブラーボ・ビクターVC、ベテラン・ファンドから440万ドル(約6億6000万円)の出資を得た。米国運輸省も注目しており、世界中から選ばれた9社と並べてその技術を評価した結果、Tern AIと契約を締結した。かつて米国運輸省の研究技術担当次官補を務めていた経済学者のダイアナ・ファーヒトゴット・ロスは、Tern AIの方法を「(米運輸省が)何十年も取り組んでいる問題に対する低コストな解決策」と評している。
低軌道衛星や地上のビーコンのような他のGPSの代替手段と違って、Tern AIの方法は高価なインフラを新たに必要としない。適応する車両やスマートフォンにソフトウェアをダウンロードするだけでよい。
地政学上の緊張が高まり衛星インフラに対する脅威がより顕著に増大するにつれ、Tern AIの地上に根ざしたナビゲーションシステムは、前進する最善の方法が「しっかりと地に足(とテクノロジー)をつけること」であると、まもなく証明することになるかもしれない。