3. 人口減少は解決可能な問題だ
「大人用おむつ」理論の何より胡散臭いところは、人類の存続を脅かし得るほかの問題に比べて、人口減少はずっと「解決可能」に思われる点だ。
つまり、政府には人口動態をある程度コントロールする手段がある。子どもの数に応じた税制控除など、子どもを持つことへのインセンティブの提供は、こうした手段の一つだ。
再び自然界に目を向けると、的確な介入によって動物の個体群を回復に導いた事例は枚挙にいとまがない。
今度もフロリダパンサーを例にとろう。1990年代までに、フロリダパンサーの個体数は30頭未満にまで激減し、近親交配や交通事故死が深刻な脅威となっていた。危機を認識した保全生物学者たちは、遺伝的に近いテキサス州のピューマの個体群から複数の個体を導入して、遺伝的多様性を増加させ、これにより子の生存率が改善した。
加えて、野生動物用の通路を建設したことによって交通事故死が減少したことも、個体群の回復に寄与した。こうした取り組みの甲斐あって、フロリダパンサーの個体数は現在、約200頭にまで回復している。
同様に、スコットランドヤマネコも、集中的な保全介入から恩恵を得ている。個体群安定化のための飼育下繁殖プログラムが立ち上げられ、またイエネコとの交雑というさらに厄介な課題についても、自然保護従事者たちが対策を進めている。
現在、スコットランドヤマネコのゲノムの「再野生化」プロジェクトが進行中だ。これは、イエネコとの過去の交雑がごく少ない個体どうしを選択的に交配させ、ゆくゆくは、遺伝的に純粋で自立的に存続できる野生個体群を復元させようというものだ。
これらの例は、積極的な保全介入によって個体数減少を逆転させ、局所絶滅を回避することは可能だということを示している。
「大人用おむつ」理論は、ネーミングセンスこそ秀逸だが、筆者が考える人類絶滅シナリオのなかでは最も可能性の低いものでしかない。それに何より、人類を「マルチプラネタリーな(複数の惑星に分布する)」種にすることで人類の未来を守るというマスクの提案は、我々の故郷の星の繊細な生態系を守るという努力と比べて、はるかにリスクが高いと思われる。