ところが1800年以降、人口増加は劇的に加速した。1960年代には、年に約2%という最高値を記録した。以降、世界的な出生率の低下により増加率は下がりつつあるが、依然としてプラスの値だ。
確かに一部の国々、特に日本や韓国などの先進国では、人口減少が現実に問題化している。しかし全体の人口を見るかぎり、人類は安泰だ。
このような動態は、動物の個体群で常に見られるものと同じだ。ある種が特定の地域では減少しているが、種の分布域全体を見れば増加している、という状況である。
これを端的に示す例として、米国東部に残された最後のピューマ個体群である、フロリダパンサー(別名フロリダピューマ)が挙げられる。

生息地の喪失と、人間による駆除が原因で、フロリダパンサーは絶滅寸前に追いやられた。1967年には、米国の「種の保存法(Endangered Species Act)」において、連邦レベルでの絶滅危惧種に指定された。
しかし、種としてのピューマ(学名:Puma concolor)は、南北アメリカ大陸で最も分布域の広い陸生哺乳類であり、カナダからパタゴニアまで分布する。
分布域の大部分で個体数が安定していることから、国際自然保護連合(IUCN)レッドリストでは、ピューマは軽度懸念(LC)、すなわち絶滅のリスクが低い種と評価されている。フロリダパンサーの危機は深刻なものだが、種そのものの存亡に関わるものではなく、あくまでも局所的な保全上の課題なのだ。
似たような事例に、スコットランドヤマネコがある。スコットランドヤマネコは、ヨーロッパヤマネコ(学名:Felis silvestris)のうち、絶滅寸前の個体群だ。かつては英国全土に広く分布したが、生息地の喪失、狩猟、イエネコとの交雑により、いまでは、小さく断片化した個体群だけが残っている。
スコットランドでの生存は危機的状況だが、種としてのヨーロッパヤマネコはいまでも比較的安泰で、大陸ヨーロッパに複数の安定した個体群が存在する。フロリダパンサーと同様に、スコットランドヤマネコも、局所的な個体数減少が必ずしも種全体の絶滅危機を意味しないことを示している。
