ルールに縛られない発想にふれて「思考の引き出し」を増やす
ノーランドの作品には、もう一つの特徴がある。それは、「ルールに縛られずに色と形を決める」という姿勢だ。東京大学の加治屋健司教授は、ノーランドの手法について次のように解説する。
「彼は絵を描くとき、あらかじめ設計図のようなものは作らない。その場で色と色の組み合わせを試しながら、即興的に決めていった」
これは、まさにデザイン思考やアジャイル開発の考え方と共通する。「まず試す → その結果を見て調整する → よりよい形を探る」というプロセスは、ビジネスの世界でも新規事業の立ち上げやプロダクト開発の際に求められるアプローチだ。

例えば、スタートアップ企業が新しいプロダクトを作るときに、最初から完璧なものを作るのではなく、プロトタイプを作って市場の反応を見ながら調整することが重要視される。ノーランドの制作プロセスには、その発想に通じるものがある。
彼の作品をじっくり見ることで、「計画通りにいかなくても、試行錯誤しながら最適な形を見つければいい」という柔軟な発想を学ぶことができる。
「没入体験」で直感力を鍛える
ノーランドの作品は、単なる「平面の絵」ではない。特に、大きなサイズの作品の前に立つと、色と形に包み込まれるような感覚を味わうことができる。
抽象画の巨匠バーネット・ニューマンの作品を見た人々が、「画面の端がどこにあるかわからなくなり、色の中に吸い込まれるような感覚を覚える」と語るように、ノーランドの作品にも、視覚だけでなく「身体的な体験」としての要素がある。

この「没入体験」は、ビジネスの場面では「直感を磨くトレーニング」に応用できる。たとえば、プレゼンテーションで相手の感情を読む、商談の場で空気を察する、新しい市場の可能性を直感的に捉える——こうしたスキルは、単なるロジックではなく、「全体を体で感じる力」が問われる場面だ。
ノーランドの作品を前にして、言葉にならないが、なぜか惹きつけられるという感覚を味わうこと。それ自体が、直感力を鍛えるトレーニングになるのだ。