WOMEN

2025.03.31 08:30

「腹を割って話をしないといけない」時価総額1兆円超え社長としての信条

小野真紀子|サントリー食品インターナショナル代表取締役社長

「透明性」と「信頼」で試練を超える

リーダーシップを取るうえで小野が大切にしていることは2つある。「透明性」と「信頼」だ。

20年、小野はOrangina Suntory France(現サントリー食品フランス)の社長に就任した。当時のフランス事業は業績が伸び悩み、社長が短期間で交代する事態が続いていた。社員のモチベーションも下がるなか、小野に白羽の矢が立った。社員はほぼ全員フランス人だ。日本人が社長になることも、株主サイドから社長が送り込まれるのも初めてだった。しかも着任早々、パンデミックが世界を襲う。小野の仕事人生最大のピンチだった。

「ロックダウンで直接会えないなかでも社員のモチベーションを維持し、一体感を生み出さなくてはいけない。難しくて、しんどかったですね」

労働組合からは「工場を2週間、閉鎖するように」との要請が出た。苦肉の策として、賃金の上乗せを条件に社員のボランティアを募り、工場のラインを半分動かすことで主力商品の製造を維持した。感染の不安を抱えながらも働いてくれる社員たち。「厳しい状況でも懸命に働いてくれてありがとう」と、ビデオメッセージを送り続けた。リモートで毎月タウンホールミーティングも開催した。「今、社内ではこんなことが起こっている」「経営陣はこんなことに取り組んでいる」と率直に伝え、少しずつ信頼を育んでいった。

コミュニケーションの機会を増やすうち、フランスの事業がうまくいかない根本的な原因が見えてきた。社員たちが「失敗したら会社を辞めさせられるのではないか」と恐れるあまりに挑戦を避けていたのだ。これには小野も驚いた。

「私が来たのは、みんなと一緒にもう一度ビジネスを建て直すため。失敗しても誰もクビにはならない。私が責任を取るから、思い切って挑戦しよう」。そう社員を鼓舞しつつ、日本のマーケティング手法を取り入れながら低迷していた商品のリブランディングを推し進め、業績回復の道筋を描いていった。

「社員の本音を聞くにはまず、こちらが腹を割って話をしないといけないのです」

透明性と信頼を重視する姿勢は、2万3000人以上の社員を要する会社のトップになった今でも変わらない。小野が社員とともに目指すのは「真のグローバル飲料企業」だ。生活者のニーズを先取りし、イノベーションを通じて世界中の人々の生活に潤いを与える商品を提供していく。

キャリアの頂点に上り詰めた今、小野は次世代の女性たちにこうエールを送る。

「自分に正直に、やりたいことを追求してほしい。そして、自分ひとりでなんでもやろうとしないこと。スマートに、しなやかに、いろんな人を巻き込んでいけばいい」


小野真紀子◎1982年サントリー入社。国際開発部でM&Aを担当し、ワイナリー買収などに携わる。2001年ハーゲンダッツ、15年グローバル人事部を経て、20年Orangina Suntory France(現サントリー食品フランス)CEO、22年にサントリーホールディングスにてサステナビリティ経営推進。23年サントリー食品インターナショナル社長に就任。『Forbes Asia』「50 OVER 50:ASIA 2024」選出。

文=瀬戸久美子 写真=若原瑞昌

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