3月は、全米睡眠啓発月間(National Sleep Awareness Month)だ。自分の睡眠習慣を見直す、絶好のタイミングかもしれない。大半の人が、当たり前すぎてありがたみを実感していない習慣はいくつかあるが、睡眠もそのひとつだ。しかし、睡眠とメンタルヘルスのあいだには、切っても切れない関係がある。
睡眠による休息は、心身両面での健康や職務の遂行、そして生産性アップやキャリア面での成功の基盤となるものだ。とはいえある調査によると、「仕事上のストレスが睡眠に悪影響を与えている」と回答した米国人の割合は実に52%に上る。読者のみなさんのなかにもきっと、そうした悩みを抱えている人がいるはずだ。
そんななか、ネット上でトレンドになっている「ベッド・ロッティング(bed rotting:ベッドで腐る)」を、セルフケアのルーティンに取り入れる人が増えている。だが、この習慣が健康に及ぼす影響については、専門家の検証がようやく始まったところだ。
新トレンド「ベッド・ロッティング」とは?
市場調査会社The Harris Poll(ザ・ハリス・ポール)が、マットレス販売会社Mattress Firm(マットレス・ファーム)のために実施した睡眠指数の最新調査によると、自身の睡眠の質を「やや悪い」「悪い」と評価した米国人の割合は53%に上る。しかし、これは驚くことではないだろう。
より多くの休息を得ようとする一部の人たちは、ネットで話題の新たなセルフケア・トレンド「ベッド・ロッティング」に関心をもっている。これは、何時間も(時には一日中)ベッドの上でゴロゴロしながら、スマートフォンをスクロールしたり、人気の配信番組を一気見したり、仕事をしたりする、というものだ。
これは、エネルギーの回復に役立つ究極の充電方法のように聞こえるかもしれない。しかし一部の専門家は、過度の「ベッド・ロッティング」は睡眠の質や全体的な活力レベルに悪影響を与えるおそれがあると警告している。
この「ベッド・ロッティング」のトレンドについてもっと深く知るため、筆者はジェイド・ウーに話を聞いた。同氏は、資格をもつ睡眠心理学の専門家で、先に紹介した「睡眠指数」を発表したマットレス・ファームの睡眠アドバイザーでもある。
ウーによれば名前こそ違うが、「ベッド・ロッティング」のような習慣はかなり以前から存在してきたという。同氏は、以下のように解説する。
「クロノタイプ(体内時計の傾向)が夜型の人の場合は、昼近くまでベッドにとどまって、うたた寝をするなどしてゆったり過ごしたい、という欲求が強い。これは、夜型人間の脳は、昼間になってもまだ夜だと認識していて、エンジンがかかるのが遅いからだ。しかし誰にとっても、ベッド・ロッティングが魅力的に思えるときはある。特にひどく疲れていると感じるときや、何もしない日を設けてダラダラしたいと思っているときには、そう思いたくなるはずだ」
「ベッド・ロッティング」が睡眠の質を下げる理由
昼間の「パワーナップ(15~30分ほどの仮眠)」については、短時間で、かつ日中の早めの時間帯にとるのであれば、睡眠の質を改善する効果が期待できる。だがウーによると、「起きているのにベッドで過ごす時間」が長すぎると、次の4つの点で悪影響が生じるおそれがあるという。
1. 「ベッドは寝るところ」だという脳の認識が弱まる:起きた状態でベッドで過ごす時間があまりに長くなると、ベッドは「寝るところ」ではなく、「起きているところ」だと脳が認識するようになる。そのため夜になっても、リラックスして眠りにつくのが難しくなる。