健康と心身の幸福のためには、良質な睡眠が不可欠だ。医薬品やサプリメントに頼らない睡眠衛生習慣は、しっかり休んで元気を回復するのに役立つ。いつも同じ時間に就寝する、睡眠環境を最適化する(寝室の気温を保ち、光や騒音を最小限にし、スマートフォンを使用しないなど)、カフェインを摂りすぎない、自然光を浴びるといった方策には、睡眠の質を上げる効果がある。
体を動かすのも大いに効果的だ。特に、狙いを絞った運動は概日リズム(体内時計)を整え、ストレスを軽減し、より深く安らかな眠りを促進する。
エクササイズは眠りにどう影響するか
睡眠中の体温は概日リズムに従って、就寝前の夜早い時間から下がり始め、午前2~4時頃まで下がったのち、起床時間に向けて徐々に上昇する。運動をすると深部体温が上昇し、運動後の体温をより速やかに低下させ、入眠を早め、眠りを深くする。
運動はまた、ストレスや不安の影響を緩和し、自律神経系のバランスを整えるため、急性ストレス反応である「闘争・逃走反応」が起こりにくくなる。運動にはストレスホルモン(特にコルチゾール)の分泌を減らして睡眠の質を改善し、睡眠誘導物質であるアデノシンや、たんぱく質の一種である脳由来神経栄養因子(BDNF)など、体を睡眠モードに導く脳内物質の放出を促進する効果もある。
快眠につながるエクササイズ
よりよい睡眠につながることが科学的に示されている運動の具体例を紹介しよう。
・有酸素運動とストレッチ
ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳は、ストレスを軽減し、睡眠潜時 (眠りにつくまでにかかる時間)を改善する。部位を意識したストレッチは筋肉の緊張をほぐし、心身をリラックスした状態にする。また、負荷の高い運動と小休憩を繰り返すHIIT(高強度インターバルトレーニング)も、睡眠の質を向上させる。
米国睡眠医学会(AASM)が刊行する医学誌Journal of Clinical Sleep Medicineには、睡眠の質が低い40歳以上の成人を対象に、中強度の有酸素運動40分とストレッチ10分を週3回、12週間行ったランダム化比較研究の結果が報告されている。