【重要なお知らせ:当社を装った偽サイトにご注意ください】

アジア

2025.04.04 12:15

尹錫悦大統領の罷免、三権分立を辛くも守った韓国

弾劾された尹錫悦大統領(Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images)

ソウルに勤務した経験がある日本外務省の元幹部は「韓国にはすべてに優先する国民情緒法があるからだ」と語る。「世論が許すなら」「世論が望むなら」という理由で、道理に合わない行動を平気で繰り返す。日本の司法が「高度の政治性がある事柄に関しては司法審査の対象から除外する」とした統治行為論を用い、しばしば世間の恨みを買いながらも、三権分立を維持してきている姿とは対照的だ。米国でも司法当局がトランプ政権による政府機関の解体などを阻む動きが出ている。

韓国司法は今回、進歩系はもちろん、保守系の判事も尹錫悦氏の横暴な行動を許さなかった。それだけ、韓国内の法秩序の維持に危機感を持っていたとも言える。尹錫悦政権で要職に就く人物と3月15日、都内で会食した。この要人は真顔で「昨年12月と比べ、韓国内の雰囲気は一変した。8割以上の確率で尹大統領への弾劾は棄却ないし却下される」と語った。司法判断を軽視した発言と言われても仕方がない。韓国の中道系の知人にこの話をすると、「政治的な対立が激化し過ぎて、対立勢力はもちろん、中道勢力や一般世論の声も耳に入らなくなっている」と語った。

今後、韓国は平穏を取り戻すかどうか、まだわからない。次期大統領の声が高まる李在明氏は3月26日、前回大統領選中の虚偽発言の責任を問われた公職選挙法違反事件の二審判決で無罪を勝ち取った。一審は懲役1年執行猶予2年の有罪判決だった。李在明氏陣営の野党議員は二審判決を前に「もともと、こうした類の行為を選挙違反とする国は多くない。一審判決は政治弾圧だ」と語っていた。確かに、尹政権が李在明氏を毛嫌いしていたのは事実だし、検察当局が政権の意向を忖度して、計4つの事件で李氏の立件を目指していたとみることもできるだろう。

しかし、「政治弾圧だ」と言って簡単に法律を否定することは、それこそ三権分立への否定につながる。立法府の人間が口にする言葉ではないだろう。李氏の大法院(最高裁)判決は、次期大統領選後になる見通しで、李氏はそのまま大統領選に立候補し、おそらく当選するだろう。

韓国という国が本当の意味で成熟するまで、今しばらくの時間が必要なのかもしれない。

過去記事はこちら>>

文=牧野愛博

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事