「再電離」と「氷」の分布も解明

SPHERExという機体名は略称であり、その正式名は「Spectro-Photometer for the History of the Universe, Epoch of Reionization, and Ices Explorer」とされる。これを直訳すれば、「宇宙の歴史と、再電離の時代と、氷の探査のための分光光度計」となる。この名称からSPHERExに託された課題が宇宙の進化過程の解明だけでなく、「再電離」と「氷」にもあることがわかる。
138億年前に発生したビッグバンの直後、宇宙には水素やヘリウムなどの元素が生成されたが、その時期の宇宙は極めて温度が高いため、水素などの原子核と電子が結合できず(電離)、プラズマ(イオン)の状態で飛び交っていた。そうした環境では光も直進できない。つまり当時の宇宙には光がなく、真っ暗な状態だった。
やがて宇宙の温度が3000度程度まで下がると、水素の原子核と電子が結合し、光子が直進できるようになった。ビッグバンから38万年後に発生したこの現象を「宇宙の晴れ上がり」という。
その後しばらくは天体が存在しない「暗黒時代」が続くが、原子核と電子が結合した水素は中性の水素ガスとなり、そのガスやチリが集まることで最初の星が生まれた。ビッグバンから2~3億年後に起こったこのイベントは「宇宙の夜明け」と呼ばれている。
しかし、誕生した星が放つ紫外線によって中性水素ガスは再び電離する。「宇宙の再電離」と呼ばれるこの現象がいつからはじまり、どのように進行したかは現在も解明されていない。
水素は水を構成する元素であり、生命誕生の源でもある。その水素の生成過程や分布をSPHERExは解明しようとしている。同時に、炭素、酸素、鉄など、星の内部の核融合で生成され、その星が爆発(超新星爆発)したことで拡散した物質の量と分布も観測する。そうした分子は星が生まれる領域(分子雲)などに氷として分布しているはずだ。
SPHERExは宇宙に存在する銀河や水素ガスの位置や総量を特定するだけでなく、ビックバン以降に物質がどのように生成され、拡散されたかを明らかにする。それらの空間的、時間的データの延長線上に、インフレーションのアウトラインが浮かび上がることが期待されている。