SPHERExはどんな機体なのか?

SPHERExは高さ2.6m、太陽光パネルの全幅が2.7m、総質量502kgという小ぶりな機体であり、極軌道を周回しながら帯状に宇宙をスキャンしていく。その軌道は常に地球の昼夜の境目にあるため、地球が太陽を半周公転した半年後には全方位の撮像が完了し、全天マップが完成する。SPHERExのミッションは25ヵ月が予定されており、その間に4枚の全天マップを製作することになる。こうして取得されたデータは球体(sphere)の画像として再現することも可能だ。
SPHERExは近赤外線を使って観測する。私たちの眼に見える可視光では、宇宙空間に漂うガスなどに遮られればその先を見ることができないが、可視光よりもわずかに波長の長い近赤外線であればガスを透過し、さらに遠方の天体まで観測できる。これはFMラジオよりもAMのほうが遠方まで受信できる現象に似ている。
赤外線は熱源から放出されるため、遠方の銀河が発するわずかな赤外線を捕えるには、太陽光や機体の熱が弊害になる。そのためSPHERExには、太陽光からレンズを守るメガホン状の「光子シールド」が搭載され、観測機器自体もマイナス210度以下に冷却される。かつてのスピッツァー(NASA、2003年打上)やハーシェル(ESA、2009年打上)などの赤外線宇宙望遠鏡には冷却剤として液体ヘリウムが搭載されていたが、SPHERExの冷却にはヘリウムも電力も必要なく、機体構造が大幅に簡略化されている。