宇宙

2025.03.14 10:30

火星を横切る衛星ダイモス、二重小惑星探査機「Hera」がフライバイ撮影に成功

欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が2025年3月12日にフライバイ撮影した火星と衛星ダイモス。多色分光カメラHS-H(HyperScout H)で撮影した近赤外線画像で、赤い惑星が明るい青色に写っている(ESA)

欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が2025年3月12日にフライバイ撮影した火星と衛星ダイモス。多色分光カメラHS-H(HyperScout H)で撮影した近赤外線画像で、赤い惑星が明るい青色に写っている(ESA)

欧州宇宙機関(ESA)の小惑星探査機「Hera(ヘラ)」が3月12日、火星へのフライバイ(接近通過)を行い、2つある衛星のうち小さいほうの「ダイモス」が火星の前を横切る様子の接近撮影に成功した。都市1つぶん程度の大きさしかないダイモスにはまだ謎が多く、詳細な画像の撮影は歴史的な偉業となる。

ESAの二重小惑星探査計画「Hera」は、地球近傍の二重小惑星「ディディモス」と「ディモルフォス」のランデブー探査を目的としている。今回のフライバイでは、火星の重力を利用して探査機を軌道変更し、最終目的地へ向けて加速させた。ディモルフォスは、米航空宇宙局(NASA)が2022年9月に探査機を体当たりさせて軌道を変える「二重小惑星進路変更実験(DART)」に成功した天体だ。

Heraの観測機器は、打ち上げ直後の試運転で地球と月を撮像しているものの、実際の観測に使用されたのは今回が初めて。ESAが公表した火星とダイモスの壮大な静止画とGIF画像が、初の科学的成果となった。

欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が2025年3月12日に可視光カメラAsteroid Framing Camera(AFC)でフライバイ撮影した火星と衛星ダイモスの単色画像。火星が明るいため、ダイモスは黒く写っている(ESA)
欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が2025年3月12日に可視光カメラAsteroid Framing Camera(AFC)でフライバイ撮影した火星と衛星ダイモスの単色画像。火星が明るいため、ダイモスは黒く写っている(ESA)

撮影はダイモスから1000kmの距離で行われた。地球の月と同様、ダイモスは火星に潮汐固定されているため、常に同じ面を向け合って公転している。

公転周期は30.3時間。火星のもう1つの衛星フォボスより外側の軌道を回っており、徐々に火星に引き寄せられているフォボスと逆に、ゆっくりと火星から遠ざかっている。

1877年に天文学者アサフ・ホールによって発見されたダイモスは直径12.4kmで、塵に覆われている。火星に巨大天体が衝突した際に生じた残骸か、火星の重力に捕獲された小惑星が起源だと考えられている。

欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供された熱赤外線カメラTIRIでフライバイ撮影した火星と衛星ダイモス。大気のないダイモスの太陽に照らされた面は火星よりも温度が高いため、明るく輝いて見えている(ESA/JAXA)
欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供された熱赤外線カメラTIRIでフライバイ撮影した火星と衛星ダイモス。大気のないダイモスの太陽に照らされた面は火星よりも温度が高いため、明るく輝いて見えている(ESA/JAXA)

今回のフライバイで得られたデータは、歴史的なだけでなく、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導する「火星衛星探査計画(MMX)」にも役立てられる。2026年度の打ち上げを目指すMMXでは、2つの衛星の詳細な観測を行うほか、フォボスに着陸してサンプルを採取し、地球に持ち帰って分析する「サンプルリターン・ミッション」を計画している。

2024年10月に打ち上げられた探査機Heraは、2026年12月にディディモスに到着予定だ。同年後半に行われる精密なスラスタ制御が次のマイルストーンとなる。ディディモスは直径780m、ディモルフォスはわずか151mで、ダイモスよりもはるかに小さい。

二重小惑星ディディモスとディモルフォス、探査機HeraとDART、地球上のさまざまな物体・建築物とのサイズ比較(ESA-Science Office)
二重小惑星ディディモスとディモルフォス、探査機HeraとDART、地球上のさまざまな物体・建築物とのサイズ比較(ESA-Science Office)

NASAのDARTでは、物体衝突による小惑星の軌道変更が可能かどうかを実証するため、探査機を時速約2万4000kmでディモルフォスに衝突させた。Heraは、衝突によって生じた変化を正確に調べ、天体衝突から地球を防衛するプラネタリーディフェンス(スペースガード)の技術実証実験としての成否を確かめるため、この二重惑星系に向かっている。

Heraのミッションマネージャーを務めるイアン・カルネッリは、今回のフライバイについて「Heraのチームが初めて体験するエキサイティングな探査だったが、これが最後ではない」とコメント。「21カ月後には探査機が目標の小惑星に到達し、太陽系で唯一、人間の手によって軌道が明らかに変化した天体の衝突クレーターの調査を開始する」と語った。

欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が2025年3月12日にフライバイ撮影した火星と衛星ダイモス。多色分光カメラHS-H(HyperScout H)で撮影した近赤外線画像で、赤い惑星が明るい青色に写っている(ESA)
欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査機「Hera」が2025年3月12日にフライバイ撮影した火星と衛星ダイモス。多色分光カメラHS-H(HyperScout H)で撮影した近赤外線画像で、赤い惑星が明るい青色に写っている(ESA)

forbes.com原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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