睡眠不足が引き起こす健康問題
睡眠不足は多くの問題を引き起こす。短気になったり、創造性や決断力が損なわれたりすることもある。睡眠時間が足りないと、注意力が散漫になったり集中力が低下したりした経験は誰にでもあるだろう。眠気によって転倒や交通事故などの危険性も高まる。
睡眠は食欲を調節するホルモンに影響を与える。レプチンは満腹感、つまり十分食べたという合図を送り、一方のグレリンには食欲を増進させる働きがある。睡眠不足になるとグレリンが増加し、レプチンは減少する。これらのホルモンの変化は、夜間の間食や肥満に影響すると考えられている。睡眠不足はインスリン抵抗性とも関連しており、肥満や糖尿病につながる可能性もある。年齢や体重の増加に伴って睡眠時無呼吸症候群や関節炎の発症率が高まるが、関節の痛みによってさらに睡眠が困難になるという悪循環が指摘されている。
アシュ医師は、女性は男性と比べて2倍高い確率で高血圧になりやすいため、睡眠不足による悪影響が出やすいと説明する。特に50歳未満の女性は、ストレスや気分障害を訴える割合が男性より大きい。同医師は、十分な睡眠をとらないと、脳卒中や心臓発作、高血圧をはじめとする循環器系の疾患など、一般的な慢性疾患すべてにつながる可能性があると警鐘を鳴らした。
人種間や貧富の差によっても睡眠の質に違いが
米国立睡眠財団は、睡眠の質は人種間でも異なるという重要な問題を提起している。米国では、白人より有色人種の方が睡眠不足を訴える割合が大きい。貧困層やLGBTなど性的少数者の間でも同様に睡眠不足の人が多い。理由としては、差別や失業、貧困によるストレスや医療の受けやすさなどが考えられる。医療を受けられないと、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害を患っていても医師の診断を仰いだり、効果的な治療を受けたりする機会がないことになる。また、こうした人々は職業上でも交代勤務や危険性の高い業務に就いている割合が大きく、過度の負担を抱えていることが多い。そのほか、「恵まれない人の割合が大きい地域」では騒音や汚染のレベルが高いなど、睡眠不足の原因が多い。
睡眠の質を高めるには
睡眠の質を高める方法として、アシュ医師は次のように助言する。「最も重要なことは、毎日同じ時間に起きて太陽の光を浴びることだ。それが体全体の流れを整えるのに役立つ」。さらに、週末に普段より長く眠ることは時差ぼけを経験することと同じだとして、心臓発作などの一因となる可能性を指摘した。
その他の一般的な注意事項としては、ベッドの中で仕事をしたりテレビを見たりせず、寝室を安らかな眠りの聖域にすることだ。就寝前にブルーライトを浴びないよう電子機器の使用も避けること。カフェインやチョコレートのような刺激物はほてりを悪化させるため、就寝前の摂取は控えよう。精神を安定させる夜の習慣を持つことも安眠の助けになるだろう。アクチグラフ(動作を記録する装置)を用いた研究では、更年期女性の睡眠障害を軽減する上で、ヨガや有酸素運動の有効性は示されなかったが、睡眠の質と不眠の重症度に関する自己評価は改善していた。
寝室の温度は18~20度程度が望ましく、AASMは温度調節のために冷却シートや毛布の使用も推奨している。瞑想(めいそう)や心を落ち着かせるアプリも人気がある。不眠に悩んでいるのなら、自分に合うものが見つかるまで、複数のアプリを試してみよう。上記の助言を参考にすれば、新たな健康習慣を確立する準備が整うはずだ。