昨年10月から今年1月まで、東京の「ちひろ美術館」で開催されていた「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ みんな なかまよ」展。絵本画家・いわさきちひろ没後50年の今、「あそび」「自然」「平和」の3つのテーマで、現代の科学の視点も交えてちひろの絵を読み解く、というものだった。
同展では京都大学総合博物館准教授、塩瀬隆之氏が企画協力を務めた。
そして塩瀬氏が同展に先立つ7月に月刊誌『図書』(岩波書店刊)に寄稿した、同展覧会についての原稿「反対語から考えを深める」がこの春、かの名門鹿児島ラ・サール中をはじめとする中学校、高等学校、大学などの入試国語問題に使用され、話題を呼んでいる。
ここでは同原稿「反対語から考えを深める」を改めて転載するとともに、塩瀬氏による「展覧会後」の書き下ろし所感を以下紹介したい。
塩瀬隆之 反対語から考えを深める[『図書』2024年8月号より]
「平和の反対語は?」と尋ねられたら、何という言葉を思いうかべますか?
最初にうかぶ言葉の一つは、「戦争」ではないでしょうか。しかし、わたしたち戦争を直接に経験していない世代は、戦争についてちゃんと理解できているとは言い難い。それがよくないことだとは知っていますが、メディアで見聞きする以上のことは何も知らない。では、知らないその言葉を反対語にしたところで、当然ながら、想像する元の言葉の輪郭もあいまいにならざるをえない。そう考えると、実はわたしたちは平和というものを考える土台を、そもそもちゃんともってはいないのではないでしょうか。
2024年3月1日から、絵本作家いわさきちひろさんの没後50年の記念特別展「いわさきちひろ ぼつご 50ねん こどものみなさまへ」が催されています(ちひろ美術館・東京、安曇野ちひろ美術館にて)。あそび・自然・平和という三つのテーマを掲げていますが、その企画協力者の一人として声をかけていただきました。自然や遊びに関するワークショップや、テレビ番組の制作協力などには多少経験があったためにお声がけいただけたと思っていたので、「平和」というテーマをいただいたときは正直戸惑いもありました。これは拙著『問いのデザイン』(学芸出版社)の視点から、一緒に平和についての問いを考えてほしい、というちひろ美術館さんからのリクエストでした。概念の輪郭があいまいなとき、個人的な習慣としている問い方の一つが「反対語のワークショップ」です。それで冒頭の問いをまず考えてみました。そこで得た最初の気づきが、「わたしたちは平和のことをよく知らないかもしれない」だったのです。
「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ みんな なかまよ」2024年6月8日~9月1日,安曇野ちひろ美術館(展覧会ディレクター:近森基+小原藍(plaplax),企画監修:塩瀬隆之.10月12日~2025年1月31日,ちひろ美術館・東京)
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