欧州の宇宙能力
そんなことはない。米国が持つような宇宙関連能力の多くは、規模ははるかに小さいとはいえ、ウクライナの欧州の忠実な支援諸国も持っている。さらに、民間企業が保有する能力もある。2022年8月、ウクライナがフィンランドの衛星サービス企業ICEYE(アイスアイ)から、レーダー監視衛星1基の全機能を6億フリブニャ(約22億円)で取得したことを思い出そう。ウクライナはもともと、自国で人工衛星を製造し、打ち上げてきた実績もある。
ドイツは2024年9月、アイスアイとドイツの防衛大手ラインメタルに代金を支払い、ウクライナの宇宙からの監視能力を拡充した。また、オランダは、地球の表面をくまなく頻繁に撮影している米衛星画像企業マクサーとの間で、画像の利用に関する1300万ドル(約19億円)の契約を結んでいる。
オランダは2024年の覚書に基づいて情報をウクライナと共有している。ウクライナは宇宙からの監視データではこのほか、欧州の宇宙大国である英国、イタリア、フランスも頼ることができる。
ポーランドは、トランプの盟友であるイーロン・マスク率いる米スペースXの衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」に代金を支払い、ウクライナが不可欠なサービスを利用できるようにしている。米政権・マスク側がウクライナによるスターリンクの利用を妨害するかもしれないという報道が流れるなか、ポーランドは2月、この契約への関与をあらためて確認した。
ただ、欧州の支援諸国はスターリンクをめぐるリスクにも備えている。仏英系の宇宙通信企業ユーテルサットは、ウクライナへのサービス提供について欧州連合(EU)と交渉中だ。
米国はウクライナによる宇宙へのアクセスをひどく面倒にはできても、断ち切ることはできない。しかも、ウクライナとの情報共有を妨害することで、トランプ政権はウクライナを害するのと同じくらい、米国を害する結果になるおそれがある。つまるところ、米軍や米情報機関は自分たちだけで情報を収集・生成しているわけではないのだ。