食品業界の経験をまったく持たない起業家のジェイソン・マクゴーワンが今から8年前に立ち上げたクッキー・チェーン、Crumbl Cookies(クランブル・クッキーズ)は現在、北米を中心に1000店舗以上を展開し、評価額が20億ドル(約3000億円)に達したと報じられている。
しかし、異例の急成長を遂げた同社の評価額の高さは、砂糖のとり過ぎから生じる一時的な興奮状態の「シュガーラッシュ」に似たもので、そう長くは続かないという見方も浮上している。

ニューヨークのマンハッタン中心部にあるクランブルの店舗の前では、長い行列が常態化しているが、現在44歳のマクゴーワンと33歳のソーヤー・ヘムズリーが2017年に立ち上げたこのクッキー店は、ユタ州の田舎町で最初の店を開いたときから大人気だった。
それ以来、1枚あたりの摂取カロリーが約1000キロカロリーという、特大サイズ(直径10センチ)の砂糖まみれのクッキーで知られるこの会社は、米国とカナダで1071店舗のフランチャイズ店をオープンした。2023年におけるクランブルのロイヤリティ収益は、1億2200万ドル(約182億円)に達し、総売上は10億ドル(約1500億円)を突破した。
トロントからフォーブスの取材に応じたマクゴーワンは、「最初はあまり期待していなかった」と語り、クランブルの事業について「すべてを逆の順序で進めてきた」と説明した。「僕らは、まず店舗の建物を手に入れて、それから機材をそろえた。レシピを完成させる前にね」
ただ、1つだけ彼らが最初から正しくやったことがある。それはバイラルマーケティングだ。巨大なクッキーは、インスタ映えにうってつけだった。クランブルはTikTokで980万人という、スターバックスやダンキンドーナツ、クリスピー・クリームの合計よりも多いフォロワーを抱えている。クランブルに関連するTikTok動画は1億700万本以上にのぼり、その中には数十万回再生されたものもある。
ロイターは先月、クランブルが20億ドル(約3000億円)の評価額で売却を検討していると報じた。しかし、一部のアナリストは、この評価額がシュガーラッシュだと考えている。というのも、このチェーンはすでにピークを迎えた可能性があるからだ。クランブルの既存店舗における平均売上高は、2022年の180万ドル(約2億7000万円)から2023年には120万ドル(約1億8000万円)へと大幅に落ち込んでいた。
1000万円の自己資金で始動
クランブル株の50%以上を保有するマクゴーワンは、創業時に貯金から6万8000ドル(約1000万円)を投じ、それ以降は外部からの資金を一切受けずに事業を展開してきた。7人の子を持つ彼は、アメリカンドリームを信じているが、その視点はカナダ的なものだ。彼は、カナダのモルモン教の家庭に育ち、父親はソーシャルワーカー、母親は銀行員だった。「とても質素な家庭だった」と語るマクゴーワンは、中学2年生で学校をドロップアウトした。