ロンドンのムーアフィールド眼科病院は先週、急速に失明を引き起こす稀な遺伝疾患に苦しむ4人の幼児の視力を救ったと発表したことで、世界中の注目を集めた。幼児らは、欠陥のある遺伝子を健康なものに入れ替える遺伝子治療によって、危機を脱したという。
「遺伝子治療はSFのように聞こえるが、大きなインパクトを与え始めている。一刻も早く、このような治療法をより多く開発する必要がある。このような治療は、患者の命を救い、その後の暮らしを変えることができるからだ」と、遺伝子治療に特化したデンマークのバイオテクノロジー・スタートアップ、Fuse Vectors(フューズ・ベクターズ)の共同創業者であるベンジャミン・ブラハは話す。
フューズ・ベクターズの創業チームは、遺伝子治療開発におけるボトルネックは、科学そのものよりも製造プロセスにあると考えている。「新しい治療法をより早く、より安全に、より安く開発したいのであれば、製造面における問題を解決する必要がある。従来の遺伝子治療の開発方法は、鍛冶屋にジェット機の製造を頼むようなものだ」とブラハは言う。
フューズ・ベクターズは、治療薬を人体に送り込むための伝達手段である「ベクター」に焦点を当てている。現状の遺伝子治療はヒトの細胞を利用している。これは他の種類の薬物送達のために開発された技術だが、生きた細胞をこの様に用いるのは非効率な上、制御が難しい。フューズ・ベクターズは、タンパク質とDNAをビルディング・ブロックとして使用し、治療薬を送達するためのオーダーメイドのベクターを構築することで必要なウイルスベクターのセルフリー生産を可能にしたという。
「これにより、より高い精度や効率の向上、スケーラビリティの拡大が可能になる」と創業チームは説明する。「薬剤の品質が向上し、不純物を排除することで安全性と有効性が改善される。研究から臨床応用までの開発スピードも加速し、製造コストの削減によって高度な治療法をより手頃な価格で提供できるようになる」
この潜在的なメリットは大きい。フューズ・ベクターズの最終製品は、厳密に管理されているため、投薬量は現状の遺伝子治療で必要とされる量の5分の1で済み、患者にとってはるかに安全だという。また、従来の方法では細胞の開発に4週間かかるのに対し、わずか4時間で検査用の新しいウイルスベクターを開発でき、コストも劇的に低くなるという。