放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第55回。
Forbes JAPANが10周年を迎えた昨年の12月3日、パレスホテル東京で開催された「Forbes JAPAN Special Gala Dinner」に出席した。
これは登壇したスペシャルトークセッションでも話したことなのだが、この10年で「Forbesコミュニティ」というものがしっかりと確立できていることに、僕はいたく感心した。メディアの役割・使命は、光を当てること。多くのマスメディアがもともと光っているものに群がる傾向にあるのに比べ、Forbes JAPANは「30 UNDER 30」や「スモール・ジャイアンツ」など、原石を見つけ出し、取材や表彰を通して光を当て、対象者を輝かせる。その結果、原石は宝石へと変化するのだ。
今後もForbes JAPANは、経済価値のみならず、幸福価値を創造した人や企業に光を当て続けるメディアであってほしいと、心から思います。
湯道を純粋に広めたい
僕自身が関与しているコミュニティでは、入浴をひとつの道と捉える「湯道」が今年、10周年を迎える。お茶やお花が長い年月を経て「茶道」や「華道」になったのなら、お湯(風呂)もいまから道をつくれば400年後に立派な文化になるのではないか、と考え、始めたものだ。
10年は短いようでそれなりに長い。2022年には「湯道文化賞」を創設。日本の入浴文化の保存・振興、そして日常の入浴行為を「文化」へと昇華させることを目的とした表彰制度で、第1回は大分県の「亀の井別荘」と「由布院 玉の湯」のご主人を表彰した。温泉といえば大型温泉旅館などの享楽的な施設が主流だった世の中で、湯布院を「文化の薫り」のする独特の温泉地につくりあげたお二人だ。
翌年の第2回は、山口県の「長門湯本温泉 恩湯」。ここは大寧寺のなかにある共同浴場で、応永34(1427)年に湯が湧いた由縁というのが面白い。寺の住職が散歩をしていたところ、白髪単衣の老人が大きな岩の上で座禅をしており、その老人が「私は長門一の宮の住吉大明神である。あなたの説教を聞きたい」と求め、住職が喜んで師弟の縁を結んだところ、大明神はそのお礼に寺の東に温泉を湧出させ、「信者や病気の人のためにお湯を使ってほしい」と言って去ったのだという。つまり、神様からのご恩ということで、恩湯と呼称されたのだ。
実はこの恩湯、施設の老朽化と利用客の減少により、2017年5月に公設公営での営業をいったん終了している。だが、地域の若手たちが「長門湯守」を結成し、2020年3月に再建した。地域の人々のなかに尊敬と感謝の心が受け継がれてきた湯であるとして、表彰させていただいた。
さらに、この受賞をきっかけに、昨年の1月15日には、長門湯本温泉で「子ども湯道教室」が開かれた。地元の小学3・4年生に「お風呂に入るのは、当たり前?」「お風呂に入れるのは、どんなひと・もののおかげでしょうか?」などを問いかけ、お風呂やお湯、温泉などについてグループで考えてもらったのだ。
授業を行ったスタッフによれば、2番目の質問の答えは「お母さん」を予測していたそうだが、「神様」「自然の恵み」と答えた子どもがいたそうだ。恩湯の歴史やエピソードを、学校ですでに教わっていたからだという。素晴らしい。授業のあとはみんなで恩湯に浸かり、湯道を実践。「みんなとお風呂に入ってとてもぽかぽかしたし、心が落ち着くようなお湯だった」「他の国では毎日お風呂に入れないかもしれないし、感謝して入りたいと思った」などの感想を受け取った。湯道がようやく教育のひとつの装置となったのだ。