「伝書鳩」とは、メッセージを届けるために人間によって訓練された鳩であり、一般的には薄い紙に書かれた通信文を足に括り付けて長距離を飛ぶ。その起源は、紀元前2000年代の古代エジプトかペルシャにまで遡ると考えられている。
例えば、古代ギリシアではオリンピック競技の結果を、参加国の都市国家に報せるために伝書鳩を使っていたと考えられている。また、紀元前44年には、古代ローマのマルクス・アントニウスがデキムス・ブルトゥスをムティナで包囲した戦いの際に、伝書鳩がメッセージの伝達において重要な役割を果たしたという証拠も残っている。
伝書鳩にはさまざまな訓練や活用の仕方があるが、最も一般的な方法は次のようなものだ。鳩は出生地で育てられ、生後約6週間までにその場所が「刷り込み」される。それから鳩は檻に入れられてメッセージの送信場所へ運搬される。そこから放たれた鳩は本能(帰巣本能)によって出生地へ戻る。そうして戻ってきた鳩からメッセージを受け取ることができる。このようにして、鳩は遠く離れた場所から(時には1000キロメートルを超える距離を旅して)メッセージを確実に運ぶのだ。
伝書鳩が本能による飛翔で「歴史を方向づけた」3つの例をご紹介しよう。
1. レバントで使われた「チェリーを運ぶ鳩」
十字軍遠征期とその後の時代、東部地中海沿岸のレバント地域では伝書鳩を使った高度なネットワークが存在したことを示す証拠がある。例えば、イギリス海軍の司祭だったヘンリー・テオンジ(1620-1690)は、100キロメートル以上離れたイスケンデルン(現在のトルコにある都市)とアレッポ(現在のシリアにある都市)の間で、商人たちが定期的にニュースを伝える「鳩郵便」を利用していたと、日記に書いている。
この鳩郵便のユニークな活用法の一つが、エジプト・アラブの歴史家であるアル=マクリーズィーによって語られている。マクリーズィーの著述によると、900年代に北アフリカのファーティマ朝で強い権力を持っていたカリフ(君主)が、自身の食欲を満たすために、600粒のレバノンチェリーを伝書鳩で運ぶように命じたという。役人たちは、600羽の鳩にそれぞれカリフのためのチェリーを1粒ずつ入れた袋を括り付け、レバノン東部のバールベックから放った。鳩たちはカイロまで600キロメートルを超える距離を飛んでチェリーを運んだ。これはおそらく、航空便による配送として最も古い時代に記録された事例だ。